2024年度の「美学演習9」(担当:武藤大祐)は、多様なジャンルの舞踊の初歩を実際に習ってみることで舞踊への理解を深めました。
舞踊には、外から見ているよりも、実際に体を動かすと初めて気付けること、感じられることがたくさんあります。この演習では、身体感覚を通して舞踊を見つめ、さらにディスカッションによって気付きを言語化したり、異なるジャンルの舞踊を比較することで考察を深めました。
最初の講師は、韓国舞踊のキムウイシンさん。「イプチュム(立舞)」という踊りの冒頭部分を習いました。練習用のチマ(スカート)を身に付け、足の運び方、手の動かし方を覚えて、呼吸と合わせていきます。
体の全体を滑らかに連動させるのが難しい踊りですが、90分×2回の練習でひとまず音楽に乗って動けるようになりました。K-POPとはまた違った朝鮮半島の美意識を体感しました。
次は歌手の中西レモンさんのご指導で盆踊りを体験。群馬県の草津節が岐阜県の「白鳥おどり」に取り入れられていることから、草津節を一人ずつ順に歌えるようになることから始め、次に振りを覚えて、歌いながら輪踊りを楽しめるようになりました。
盆踊りは、振り自体は易しくても、歌のサイクルと踊りのサイクルが微妙にずれているため、集団で行うゲームのような感覚が生まれます。
三番目は、岡田愛弓さんによるHOUSE。ビートの速い音楽に乗って軽やかに動き続けるストリートダンスの一ジャンルです。
足を置く位置を一歩また一歩と覚えていき、少しずつ振りのフレーズをつなげながら、一人一人が自分なりの滑らかな重心移動のコツやリズム感をつかみます。運動量がかなり多いですが、細かい足捌きとともに心地よく体を揺らせるようになりました。ちなみに講師の岡田さんは県女の卒業生。現在はダンスのインストラクターをされています。
最後は、壊れた人形のように独自のスタイルで踊るAbe"M"ARIAさんに、即興で踊るダンスを教わりました。
音楽をかけながらじっくりと体をほぐしてから、架空のボールでキャッチボールをしたり、ランダムに歩きながら自由に動きを変えてみたり、互いに動きを真似したりしている内に、テンションが高まります。ルールなしで動くので最初はみんな恥ずかしがっていましたが、動いている内に原始的な衝動が湧き起こって来るのを実感できたようです。
このように、多様な舞踊の初歩を各2回の授業で学び、舞踊の幅広さにふれるとともに、ディスカッションの時間では異なる舞踊の共通点や違いを探り、舞踊を分析する視点を練り上げていきました。やがて「上手/下手が重視される踊りと重視されない踊りの性格の違い」、「即興性と反復性はそれぞれコミュニケーションにどんな特色を与えるか」、「踊りにおいて「個性」とはどういうことを指すのか」といった美学的なテーマが考え出され、最終的にレポートの形に仕上げてもらいました。
「美学」は、芸術作品を鑑賞するだけでなく、自身の身体的な経験を対象として考察を深めることもできます。今回の演習では、身体感覚と言語感覚、具体的な体感と抽象的な思考を総合して「考える」ことを経験してもらえたように思います。