今回の「芸術の現場から」のゲスト講師は、美術作家のさとう りさ先生をお招きしました。
大学院の時に「パルコアーバナート#7」大賞を受賞、修了後にはフィリップモリスアートアワードグランプリを獲得するなど、華々しく作家活動をスタート。現在も横浜を拠点に国内外で精力的に作品を生み出しています。
ご講義は、さとう先生の大学時代から、現在に至るまでに制作された作品のスライドを中心に、どういったことを考え、どのように周りを巻き込み、制作していくのかなど、貴重な体験をもとに話していただきました。
さとう先生が大学に在籍されていた1990年代は、インスタレーション、そして写真や映像による表現がクローズアップされ始め、絵画、デザイン、工芸、彫刻などの領域を超えて、さまざまな形態の作品を見ることができるようになりました。
東京藝術大学デザイン科出身のさとう先生は、デザインをしない時代だったと。
学生時代に制作された作品が続きます。
膨らませて丸みを帯びた形に惹かれたことは、現在も続いているようです。空気を素材としたバルーンや強烈なニオイを放つFRPなど、いろいろなことを試し、可能性を広げていきたいと欲張っていたと振り返られました。
NHKの教育番組「わたしのきもち」の中での作品の事例も紹介していただきました。
国内外を問わず、ワークショップを経験されているさとう先生。
静岡県の三島にあるヴァンジ彫刻庭園美術館ではチューリップを使った「インフィオラータ」を開催。地域の方々と一緒に巨大な絵画を制作されました。1週間でなくなってしまう、いわば見頃というべき時間を兼ね備えた作品だったようです。
2019年にはインドのシュリシュティ芸術大学の「Srishti INTERIM- Festival of Ideas」というイベントに向け、学生たちと一緒に巨大なバルーンの作品を現地で制作しました。まず学生に触ってもらい、「何を感じ、そして自分たちは、何を作れるのか」を問うことからスタート。
インドでは正式な服を、ミシン屋さんに頼み、作ってもらう慣習があるようで、型紙をもとにミシン屋さんにバルーンを制作してもらったそうです。作品は野外で展示をし、地元の方とコミュニケーションがとられました。
次は2021年のコロナ禍、金沢21世紀美術館で開催された「ぎこちない会話への対応策̶第三波フェミニズムの視点で」の紹介です。アーティストである長島有里枝氏により、キュレーションされた作家10名による展覧会。
その時に感じた「想い」とは、、、
ひとつの展覧会がふたつに分かれたことは、決して悪いことではなく、そこに大事なことが詰まっていることでもある。長島さんの情熱によって、カタログは繊細かつ視覚的にも優れた構成で、今でもとてもいい展覧会だったと振り返ることができます。と語っていただきました。
本学の図書館でも閲覧できるようにします!!
そして後半
2018年から出展されている「UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川」、SLなどが走ることで有名な大井川鐵道の無人駅が主な展示場所。さとう先生は、2001年に始めたサトゴシガンというプロジェクト(オブジェ作品をご自宅などに貸し出し、一緒に生活する様子を写真に撮ってもらう)を静岡県島田市内で実施し、抜里駅に写真とオブジェ作品を展示されたそうです。
また野鳥を取るための罠「くぐりこぶち」というタイトルのもと、人間があたかも野鳥となり、エサにつられて迷い込む体験ができる作品などを紹介していただきました。
そして最後は、今年の6月9日(日)まで開催されていた「黄金町バザール2024」での作品を紹介。さとう先生が過去に出展された「ヨコハマトリエンナーレ2020」の作品と併せて作品の解説をされました。
特殊な時代背景を持った黄金町は、市をあげてアートの街として創造されてきました。アーティストの日常の生活、制作、そして展示を通して、次の世代への滋養を日々蓄えていいる様子を表しているそうです。
京急電鉄の高架下での巨大な作品。丸みを帯びた形体や明るい青色は、極小の空間がひしめき合う建物との対比を鑑賞者に投げかけながら、どこかほっこりと、心を柔らかくしてくれる作品でもありました。
今回のご講義は、学生時代から現在まで、第一戦で活躍し続けることは、何が大切かを作品を通して知る機会となりました。人、場との関係性から紡ぎ出される言葉は、柔らかく心に響くものでした。
さとう先生、ご講義ありがとうございました。