2025年6月30日月曜日

6月16日「芸術の現場から」 日本通運(株) 大木康代先生

6月16日、「芸術の現場から」では日本通運(株)関東美術品支店の大木康代先生にお越しいただきました。

大木先生は大学卒業後、日本通運に勤められ、美術品輸送に30年以上携わられています。

ご講義は、大木先生が関わった美術展の紹介にはじまり、美術館やマスメディアなどから仕事を受注していること、「日本の美術品輸送の歴史は、まさに日本通運の美術品輸送の歴史」ということをお教えいただきました。1951年、サンフランシスコのデ・ヤング記念博物館での「講和記念サンフランシスコ日本古美術展」から日本通運の美術品輸送がはじまり、1964年には《ミロのヴィーナス》を運び、その折には時速30km程度で車を走行させたということでした。現代では考えにくい輸送方法で、きっと当時の注目を集めた美術品輸送だったのでしょう。とても興味深いお話しでした。

大木先生は美術品の取り扱いについて「美術品を、赤ちゃんを抱くように持つ」と表現され、学生たちは、そのイメージしやすい言葉に感銘を受けた様子でした。

その他、海外での美術品輸送、航空機やトラックでの輸送などについて、具体的な事例をご紹介くださいました。国内輸送と海外輸送のちがい、海外輸送の煩雑な手続き、美術品専用車の仕様、作品を輸送する時の温湿度や振動への配慮などは、展覧会を鑑賞しているだけではイメージできない、まさに「裏方」の仕事。学生たちは美術品輸送の大変さと重要性を知り、今後の展覧会鑑賞に新たな視点が加わったことでしょう。

最後に、昨今、美術品輸送におけるSDGsの取り組み、リユースの箱などについてお教えいただきました。時代に合わせて美術品輸送も進化していることを知り、今後の展覧会活動について考えさせられる良いご講義でした。

大木先生、ありがとうございました。

2025年6月10日火曜日

6月2日「芸術の現場から」サントリー美術館学芸員 内田 洸先生

今回の「芸術の現場から」は、ゲスト講師としてサントリー美術館学芸員の内田 洸先生をお招きしました。

内田先生は、2012年早稲田大学大学院文学研究科美術史学コース修士課程を修了され、博士後期課程在学中に、秋田県立近代美術館の学芸員公募に応募され、学芸員になられました。

ご講義は、本学との縁を繋いだサントリーの説明から始まりました。

1899年、鳥井信治郎氏が創業、およそ60年後の1961年に佐治敬三氏の社長時代に、サントリー美術館が東京都千代田区の丸の内パレスビル内で開館。多くの美術館は、収蔵品を見せるために建設され、開館するそうですが、収蔵作品数「0」から始め、関係者を驚かせたそうです!!

2007年に六本木の東京ミッドタウンに移転。設計は、世界的に有名な隈研吾氏。

学生時代、考古学にも興味があり、選択を迷われたそうですが、日本美術の江戸絵画を専攻されました。学生時代、学内にある博物館でのアルバイトやゼミ活動として、絵画作品の調査や江戸時代の絵師のお墓巡り(苔掃)などもされたそうです。

次にサントリー美術館の概要へ。

日本全国の博物館数は令和三年度の報告では約5700館あり、そのうち美術・歴史を中心としたものが4400館ほど、この中で東京には約200館もあるそうです。国宝や重要文化財を多く収蔵し、外国人にも人気がある根津美術館や茶道具や刀剣などを収蔵する三井記念美術館などを説明されました。

そしてサントリー美術館の紹介に。

「生活の中の美」を美術館の基本理念とし、「美を結ぶ。美をひらく。」をミッドタウン移転後のミュージアムメッセージとしたそうです。

収蔵作品の紹介では、伝承として北条政子が所有していたとされる漆の器やガラス作品も多く、特にエミール・ガレのコレクション数は国内でも有数だそうです。

「都市の〈居間〉」が館内のコンセプト。サントリーをもじった玄鳥庵という茶室が館内にあります。

続いて、学芸員の業務について、詳しく話していただきました。資料の収集から、保管、展示、教育普及、運営・管理、照明器具LEDへの移行やショップで販売されるグッズ制作との連携など、大変多くの業務があるそうです。

特に展示について、展覧会が公開され、終了するまでの流れを説明していただきました。企画立案から始まり予算策定、出品交渉、広報、図録作成、造作・図面作成、展示設営、展示、開幕、イベント、閉幕、撤収、返却などなど。理想的には、約3年前からスタートできればいいそうです。

企画の内容として、収蔵品を中心にしたコレクション展か国内外の様々な美術館や個人からお借りする企画展かで、業務の内容も大きく異なるそうです。また自主企画か数カ所を巡回するか、マスメディアなどが企画に関わるかで、予算策定も大きく変わってくるそうです。

ここで出品交渉や調査の逸話を紹介していただきました。

上の画像は、巡回企画として関わったミネアポリス美術館を訪ねたときのものです。

国内の例として、お寺が所蔵される仏像や襖絵は、まだ現役で使用されていることがあり、簡単には展覧会に出品できないことや、調査や新規撮影を夏のお寺で行った際、汗が文化財に飛ばないよう、額にしっかりタオルを巻いたエピソードも語っていただきました。

何回も校正する図録制作では、フリクションが必須。研究の成果で記載内容が修正されることや、誤字脱字のチェックとフル回転、時にフリクションのインクや消しゴムを変えることもあるそうです。

大切な作品の運搬前にはコンディションレポート(調書)の作成が必要になります。どこが傷んでいるのか、どの箇所に気をつけなければいけないのかなど。運搬時は何かあったときに対応できるように、ずっと同行されるそうです。九州で作品をお借りした場合は、東京までなんと2日間も。

作品を展示する上で、照明効果はとても重要。外部に委託する美術館もあれば自分たちで行う美術館もあるそうです。

最後に今後、サントリー美術館で開催され、内田先生が関わっている「絵金」の展覧会について、紹介されました。高知県「土佐赤岡祭り」で使用される芝居絵などが中心になるようですが、履修生の手元に配られたチラシは、片面印刷の先行チラシ。これから本チラシと呼ばれる両面印刷へと制作が進んでいくとのこと。今まで芸術作品として、美術館で取り上げられることが少なかった「絵金」にスポットを当てた画期的な展覧会。実際のお祭りで見られるように、暗い空間の中に屏風を設置し、行燈の光で照らされた雰囲気を再現する試みなど、大掛かりなものになるようです。

あまり聞く機会がなかった多岐にわたる学芸員業務など、貴重な経験を交えたご講義でした。

内田先生、ありがとうございました。