2021年6月18日金曜日

2021年度「芸術の現場から」     横山義志先生ご講義「どうすれば舞台芸術で「食って」いけるのか」

6月14日の「芸術の現場から」はSPAC(静岡県舞台芸術センター)の文芸部にいらっしゃる横山義志先生に、「どうすれば舞台芸術で「食って」いけるのか:コロナ禍における芸術活動支援から考える」というテーマでお話をしていただきました。

SPACは静岡市の「舞台芸術公園」のなかに立派な野外劇場「有度」を含む複数の劇場を持ち、また東静岡駅のすぐ隣の「静岡芸術劇場」や、駿府城公園でも公演を行っている静岡県立の劇団・劇場組織です。

コロナ禍における芸術活動支援について受講生にしらべてもらった先生は、それが1)厚労省、2)経産省、3)文化庁の三つの省庁から行われていることを確認し、厚労省のものが主として労働者の「賃金・給与」を対象にし、経産省のものが主として事業での利益を対象にしているのに対し、文化庁のものがそれに加えて「文化芸術活動」への謝礼を対象にしていることに注目します。

アートには、事業や労働とは別種の「謝礼」という収入があるのですけれど、それがどういう性質のものなのかを西洋のアートの歴史を遡って説明されます。

アートは共同体やその宗教儀礼に必要な「技術」として始まったのですが、中世にはギルドを持つ「職人芸」とみなされ、近世にアカデミーが作られることで天才である「自由人」の学芸と見做されるようになりました。また近代に入ると、「市民」として社会での機能が強調されるようになり、二十世紀には「芸術労働者」としての役割が強調されるようになります。そして「自由人」、「自由業」としてのアーティストに相応しいのは、報酬ではなく「謝礼」という言葉だったのでした。
職人芸としてのアートの評価はギルドの他のメンバーが、アカデミー型のアートの評価は有識者が、社会型のアートの評価は受容者が中心になっていました。現代のアートはこの三つの評価がバランスよく得られることによって成り立っていると指摘されたのでした。

ですからアート、あるいはアーティストにはもともと、近代的な経済の枠組みからはみ出すところがあります。実際、演劇を専攻する私立大学の増加は、比較的裕福な階層の出身者が演劇の現場を「食えなくても」続けるという傾向を強めたかもしれないと先生は指摘されました。
舞台芸術、とりわけ演劇では、「ライブ」だけで「食っていく」のはもともと難しいのです。そしてコロナ禍はその困難をさらに深めてゆきます。一回性、ライブ性を重んじる演劇がオンラインというメディアにうまく適合しないことと、コロナ禍での経済格差の拡大により庶民が観劇に使えるお金が減ってきたことです。

そのなかで「舞台芸術」を「続ける」ことはどうやったら可能なのか、コロナ禍で深まった舞台芸術の危機はそれ以前からも存在していました。
舞台芸術は「人件費」が多くを占める芸術です。それを賄う公的資金、民間資金は増やすことができるのか、コストは減らすことができるのか、他に道はあるのか、解決が見出されているわけではありませんが、まさにみんなで考えていきましょう、というのが先生のご講義の結論でした。

簡単な希望や展望を示す、というお話ではなく、舞台芸術に固有の「食っていけなさ」についての歴史的経緯と現状を分かりやすく説明されたご講義でした。

2021年6月7日月曜日

2021年度「芸術の現場から」5月31日 明珍素也先生によるご講義

5月31日の授業には、明珍素也先生をお迎えして、「彫刻の保存修理ー日本の文化財を対象とするー」と題してご講義を頂戴しました。明珍先生は、仏像などの立体的な文化財の保存修理をする工房である株式会社明古堂の代表で、武蔵野美術大学客員教授も務められています。

今回のご講義では、まず仏像の様々な造像技法やの解説から始まりました。一木造、寄木造、割矧造といった各技法について、わかりやすい説明があり、次いで木彫の場合の樹種にも触れられました。次に、仏像にはどのような荘厳がなされているか(荘厳は仏を飾ること、この場合は仏像の表面にどのような仕上げを施すかということ)について説明があり、制作・修理に欠かせない漆のお話しもなされました。


後半では、具体的な修理事例における様々な問題が紹介されました。修理技術の解説はもとより、文化財修理の方針や理念などについて、幅広いお話しがありました。現在基本となっている保存修理は、推定などによる復元は極力避けて、現在残されている姿がそのまま後世に伝えられるように修理するという方針で行われるということで、必ずしも修理後の見た目がいわゆるピカピカになるわけではないとのことです。

また、修理の方針によっては、一度部材を全て解体してバラバラにしてしまうこともあり、解体された様子も画像により説明されました。


ご講義の全編にわたって、修理現場でしか得られない貴重な画像が豊富に用いられ、学生一同、終始引きつけられながら90分が過ぎてしまいました。

大変得がたいご講義ありがとうございました。

2021年6月3日木曜日

「アートマネジメント特講1」の授業で茨城県近代美術館の「ハローミュージアム」を体験しました。

6月3日の「アートマネジメント特講1」の授業ではオンラインでの教育普及事業を活発に行っている 茨城県近代美術館の「ハローミュージアム」というアウトリーチ事業を体験しました。 zoomを使って授業時間に担当の方とつながり、 交流を深めながらオンラインでの鑑賞を試みました。 今回はモネの作品の一部を拡大してみてみることで、 色について考えたり、感じたことを自由に発表してみました。 担当の方は本学の卒業生の中村さんということもあり、 お仕事について、また在学中の様子などもお話ししていただき、 学生たちも親しみを持って参加することができました。
最後の20分はオンラインでの鑑賞について感想を述べたり、 美術館への質問など活発な発言が見られました。 教育普及事業のバリエーションやオンラインならではの強みを生かした 試みとなり、とても充実した時間になりました。 茨城県近代美術館の皆様、ありがとうございました。

2021年5月30日日曜日

「アートマネジメント特講1」の授業で群馬県立近代美術館見学に行きました。

5月13日、「アートマネジメント特講1」の受講者で授業時間内に 群馬県立近代美術館の見学に行きました。 例年この授業では美術館の教育普及事業について学んでいます。 大学で理論を学んだあと、本日は美術館に実際に赴き、普及担当の方からお話を聞いて、 その後展覧会をさせていただきました。
担当の小菅先生よりお話をいただきました。 広い会場を用意していただき、短い時間ではありましたが、 美術館の職員の方がどのような仕事をしているのか、また 普及ツールについて紹介いただきました。
見学させていただいた展覧会は常設展と企画展「デミタスカップの愉しみ」です。 デミタスカップ・コレクター村上和美さんのコレクションから精選したデミタスの逸品が約380点展示され、 学生たちも「きれい~」「ほしい。。。」などとつぶやきながら じっくりと鑑賞していました。 学外での授業はやはり刺激になりますね。 美術館の皆さま、どうもありがとうございました。

2021年5月24日月曜日

「芸術の現場から」山重徹夫先生

本日の『芸術の現場から』は、中之条ビエンナーレディレクター、ビエントアーツギャラリー代表の 山重徹夫先生にお越しいただきました。 群馬県内の国際芸術祭といえば、中之条ビエンナーレ!といわれるように 2007年から始まった取り組みについて、そのきっかけや立ち上げ、これまで行われてきた 芸術祭の様子などをたくさんの画像、映像資料とともにご紹介していただきました。
アーティストってどんな人なのだろう?というお話から始まり、 アーティストが主導で行う場を作りたい、コミュニティをもう一度再生させたいといった思いから ディレクターを長年務めていらっしゃったとお話しして下さました。 紹介してくださった内容は多岐にわたるもので、 ご自身ディレクターがを務めた芸術祭のお話を交え、実際の現場の声を届けてくださいました。 山重さんは、国内外を問わず作家とじかに話をし、現場を回り、会場を探したりと 丁寧に作家や地元の方々と向き合ってきた様子が印象的でした。 また、その時々の社会状況に応じて芸術祭を展開し、国際交流やマルシェ、会期中のショップ、 サポーターの制度などを立ち上げ、全力で楽しみながら行っていることが伝わるものでした。
たくさんのご経験から『伊豆アートサイト』、『するがのくに富士ビエンナーレ』のお話、また ビエントアーツギャラリーのお話にも触れていただきました。 ディレクションというアートマネジメントにかかわる仕事がどういうものか、 その熱量に学生も圧倒された様子でした。 今年も秋には中之条ビエンナーレが開催されます。 せひ皆さんで足を運んでみましょう。 本日は貴重なご講義、ありがとうございました。

2021年5月20日木曜日

2021年度「芸術の現場から」多胡邦夫先生(TAGO STUDIO TAKASAKI)によるご講義

5月17日の授業には、作曲家・音楽プロデューサーの多胡邦夫先生にお越しいただきました。

多胡先生の作詞・作曲による「home」(歌:木山裕策)は、2008年NHK紅白歌合戦出場曲であり、多くの人々に愛され続けています。
先生は、2014年に高崎市と設立したレコーディングスタジオ TAGO STUDIO TAKASAKI の運営責任者もなさっています。

ご講義では、これまでの音楽人生やスタジオの活動についてお話してくださいました。
幼少期に、枠組みから外れたことをしても評価されるという体験をしたことが、その後の人生に大きな影響を与えた、と語ります。
中学生時代にロックバンドを結成し、全国各地のコンテストで優勝を重ねます。その後、上京して作曲家をメインに活動。
作曲家が自分の天職(本気でやっていかなければならない仕事)だと初めて思えたのは、「home」を作曲してから。全国キャンペーン中に直接、ファンの皆様から感想を伝えられたことがきっかけに。
スタジオ風景

高崎市からの依頼を受け、行政と音楽家が協力してレコーディングスタジオを設立することに。行政上の難題を乗り越え、いくつかの奇跡にも恵まれて、夢の実現となりました。
選りすぐりの機材や雰囲気づくりに配慮した環境を整えた、全国に例を見ないレコーディングスタジオです。

高崎を盛り上げるためにできること。全国に発信できること。
ミュージシャンたちが自分たちの音楽を対価に、高崎に貢献してもらえること。

音楽活動の経験と実績を活かしたコンセプトによって、高崎市民のためのプレミアム・ライブや、若手育成のためのミュージックフェスティバル、子どもたちのためのイベントなどが開催されています。また、カフェは市民の憩いの場にもなっています。

今回、授業のために、特別にスタジオ内を撮影した映像を見せてくださいました。
制作者たちへの配慮が一つひとつの作品へのこだわりへと繋がっていることがわかりました。 そして、メジャーアーティストたちによる壁一面のサインからも、スタジオの重要性や存在意義が伝わります。

Made in Takasaki のヘッドホン

「小さな運は自分の努力で呼び込める。
 だけど、大きな奇跡は自分ではコントロールできない」

何かを達成するには、周囲の協力があってこそのものなのだと、あらためて気づかされました。

多胡先生のお話に惹き込まれ、教室は優しさと情熱に包まれていきました。

素敵なお話をどうもありがとうございました。


TAGO STUDIO TAKASAKI http://tagostudio.com/

2021年5月19日水曜日

「芸術の現場から」 デザイナー       小佐原孝幸先生

5月17日の「芸術の現場から」の講義、 講師はデザイナーの小佐原孝幸先生です。  先生は2009年よりひたちなか市のデザインによる活性化プロジェクトに携わられています。 2014年、ひたちなか市で功労表彰され、2015年、地域性をとりいれた『ひたちなか海浜鉄道湊線駅名標』で グッドデザイン賞を授賞されています。 講義ではまず「デザインの役割とは問題解決である」という定義を掲げられ、お話しされました。 問題は社会の中に多くあり、今回メインでお話しされました「駅名標デザイン」もひたちなか海浜鉄道湊線(以下湊線)が 抱えている問題を解決するためにデザインされたものでした。先生は、廃線の危機にあった湊線で、沿線の史跡や特産物を 取り入れた駅名標のデザインでひたちなか市の活性化に取り組まれています。  具体的にはとても興味深い3つのプロジェクトのお話をしていただきました。 1、広告媒体として使える駅名標デザイン 湊線の沿線にはたくさんの観光資源があります。その1つの駅「阿字ヶ浦駅」は温泉や海水浴場があり、 美味しいアンコウが水揚げされています。そこで先生は「阿字ヶ浦」の文字に観光資源である温泉マークや アンコウのイラストをとりいれ、それをみた人が地域に興味を持ってくれるような、そんな駅名標のデザインをされました。 読みやすい文字にするデザインではなく、考えてもらうデザインです。 みた人が感覚的に・能動的に理解できるデザイン、広告媒体として使える駅名標デザインを目指されて作られたとのことでした。
2、観光案内板のデザイン 駅名標デザインが評価されたことで、観光案内板のデザインにつながったようです。 駅名標と同じ考え方を取り入れた、観光資源のイラストと文字が融合した新しい観光案内板です。 例でお話しされた「華蔵院」駅名標デザインの「院」という文字には三角をつけたデザインが入っています。 その三角について、クイズ形式で受講生たちに問題を出されていました。 答えは猫の耳。華蔵院には古くから化け猫の民話が伝わっていることから取り入れた三角でした。 その他、幾つものデザインを紹介いただき、いずれもユーモアが感じられるとてもわかりやすいデザインで学生たちも興味津々でした。
3、フィナンシェ「駅名菓 トレンシェ」のデザイン ひたちなか市は障がい者就労訓練の場として、加工食品やクッキー、パウンドケーキ等お菓子を製造販売しています。 売上は、障がいを持つ方々の支援として、ひたちなか市の社会福祉法人「ハートケアセンターひたちなか」で役立てているものですが、 それらのお菓子が売れないと作業工賃も上がらないとのことでした。作業工賃向上は障がい者への支援として、重要な課題となっているようです。 小佐原先生がデザイン依頼されたものは駅名標と同じデザインをパッケージに取り入れたお土産用のフィナンシェ「駅名菓 トレンシェ」です。 パッケージの色から想像できる味(ピンクはイチゴ味、緑は抹茶味など)にし、食べる人たちがコミュニケーションしやすいデザインです。 駅名標が新聞、テレビ、インターネットなど様々なメディアに紹介された相乗効果もあり、現在売上げが伸びできているようです。 そのおかげでお菓子を製造する人々の工賃が少しずつ改善されてきているとのことでした。 デザインによる支援のつながり事例を分かりやすくお伝えいただきました。
最後にご自身がデザインされているフォント(文字デザイン)の話もしていただきました。 駅名標や案内板のベースになっているフォントは、小佐原先生のオリジナルです。 文字に取り入れられているイラストは、統一感を出すために、フォントの柔軟性が必要になってきます。 このオリジナルフォントの特徴は、正体、長体(縦長)、平体(横長)にも対応している点です。 様々なイラストと組み合わせてもイメージを合わせることができる優れたデザインで、圧倒されました。
最後の質疑応答では、学生たちからいつも以上に多くの質問があり、時間目いっぱいまで応えていただきました 。中でも印象に残った質問内容は「駅名標デザイン」の最初のきっかけについてです。 「駅名標のデザインは依頼されたものではなく、自身が鉄道会社へ提案したアートプロジェクトの作品だった」ことでした。 提案型のため、最初のデザイン料などは発生せずに展示されたもので、それが評判を得て本格的なデザイン仕事につながったとのことでした。 もう1つの質問からは、先生の論理的な思考は、ピタゴラスイッチで有名な佐藤雅彦先生に学生時代教授されたものだということもわかりました。 今回の小佐原先生のわかりやすいデザインのお話で学生たちも日常に溢れている文字デザインの興味が湧いてきたと思います。 大変貴重なご講義、ありがとうございました。