2024年7月2日火曜日

6月17日「芸術の現場から」美術作家 大石 歩真先生

今回の「芸術の現場から」のゲスト講師は、NPOクロスメディアしまだ代表理事の大石 歩真先生をお招きしました。

静岡県島田市のご出身の大石先生は、静岡で広告会社、名古屋でPR会社取締役をつとめた後、Uターン帰郷し、地域活性を専門に扱う「クロスメディアしまだ」を設立、その後、NPO法人化しました。
コミュニティサイトを活用した市民活動活性化事業を皮切りに、地域づくり分野での事業を開始。「UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川」の開催をはじめとするアートによる地域再生事業や、子ども向けの社会教育事業、地域情報の発信事業など、「スキだらけのマチづくり」をテーマに、人と資源をクロスさせる新しい視点で展開。令和5年には静岡県文化奨励賞を授与されていいます。

大石先生がプロデュースした芸術祭の取り組みを軸に、地域の課題と、どう向き合っていくか、どのような場所づくりを目指しているのか、ご講義いただきました。

まずは、活動の拠点である島田市のお話から。
お茶の産地として知られる静岡県。6月のこの時期は、2番茶の葉が収穫されるタイミングです。
テーマとなっている「スキだらけのまちづくり」。スキには、《好き》や《隙間》などの意味が込められています。地域に暮らす人の価値観はさまざま、違いがあって当然。その違いの中に隙間が生まれる。その隙間を繋いでいけるよう、コーディネートしていくことに魅力を感じたそうです。切り口としての情報支援、子育て支援、中間支援、そして芸術文化の支援など、分野を横断して取り組んでいます。

アートによるまち作りの可能性を実感し始めたのが、2018年からスタートした「UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川」。
まずは、2024年2月に開催された芸術祭のPVを紹介。

なぜ「UNMANNED(無人)」をテーマにしたのか。

島田市の人口の推移が紹介、地域基盤の変化により、さまざまな「無人」が形成されていきました。外部環境としては、コロナ禍で見られた都市部の無人化、効率化が進むことで進む無人化など。内部環境としては、「空き家」「廃校」「祭り・祭事」「耕作放棄地」「鉄道」「無人駅」など。「無人」は、身近に存在し、現代を象徴しているかのようでした。

ここで着目したのは、SLやトーマス機関車が走る大井川鐵道、全部で20ある駅のうち、16の駅が無人駅です。「UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川」は、駅から始まり、駅周辺のエリアに広がり、展開されています。
その過程で生まれたものとして、アーティストが制作のために滞在する古い民家があります。大石先生はこの民家をNPOで買取り、制作の場であり、地域住民とアーティストのコミュニティスペースとして、生まれ変わらせます。改築の過程で残ったのが、1階にある広い和室。作品が存在する場でもあり、地元の人が、寄り合い、コトが生まれる場にもなっています。
地元の方たちは自らを「抜里(抜里)エコポリス」と名付け、お揃いの青いジャンパーまで制作しています。初夏には蛍の鑑賞会が開催し、エコポリスの方も大活躍。

大石先生は、アーティストと関わり始め気づいたことがあります。
地域で暮らす人にとっては当たり前すぎて価値を見出せなかった、忘れ去られたものやこと、場が、アーティストからみれば面白く魅力的なテーマになる。

今まで関わってきたアーティストから感じていることとして、制作などにおけるアーティストと協力者の関係は、指示するものではなく、上下の関係がない対等な関係である。だから協働で生み出すことができる。1つの解しか導き出せない問いではなく、アートも地域も正解がないことが、協働で何かを作り出すことができる要因になっている。
減っていくことをマイナスと捉えず、地域でできないことは、できる人がやればいい、それが外部の人でも大歓迎。大石先生は、「地域は大きな器を作ること」とイメージしています。

最後に、大石先生の学生時代のお話から履修生へのメッセージです。
中学や高校から、バックパッカーとして、世界中を旅し、大学時代にも数多くの国を訪れていた大石先生。卒業後は広告代理店で働き、もっといろいろな人と関わりたいと思っていたそうです。
「地域を面白くしていくためには、ばかもの、若者、よそ者、この3つがとても大切です。地域との関わりを固く考えず、自分ができることを考える。例えば漫画が好き、とか。その漫画を私出発のものとして大事にすることから地域づくりに参加することもよいと思うのです」

とても素敵な低音ボイスの大石先生。人を引きこむ魅力的な声と言葉に、予定されていた時間があっという間に過ぎていきました。
大石先生、ありがとうございました。

2024年6月25日火曜日

6月10日「芸術の現場から」美術作家 さとう りさ先生

今回の「芸術の現場から」のゲスト講師は、美術作家のさとう りさ先生をお招きしました。

大学院の時に「パルコアーバナート#7」大賞を受賞、修了後にはフィリップモリスアートアワードグランプリを獲得するなど、華々しく作家活動をスタート。現在も横浜を拠点に国内外で精力的に作品を生み出しています。

ご講義は、さとう先生の大学時代から、現在に至るまでに制作された作品のスライドを中心に、どういったことを考え、どのように周りを巻き込み、制作していくのかなど、貴重な体験をもとに話していただきました。

さとう先生が大学に在籍されていた1990年代は、インスタレーション、そして写真や映像による表現がクローズアップされ始め、絵画、デザイン、工芸、彫刻などの領域を超えて、さまざまな形態の作品を見ることができるようになりました。
東京藝術大学デザイン科出身のさとう先生は、デザインをしない時代だったと。

学生時代に制作された作品が続きます。

膨らませて丸みを帯びた形に惹かれたことは、現在も続いているようです。空気を素材としたバルーンや強烈なニオイを放つFRPなど、いろいろなことを試し、可能性を広げていきたいと欲張っていたと振り返られました。

NHKの教育番組「わたしのきもち」の中での作品の事例も紹介していただきました。

国内外を問わず、ワークショップを経験されているさとう先生。
静岡県の三島にあるヴァンジ彫刻庭園美術館ではチューリップを使った「インフィオラータ」を開催。地域の方々と一緒に巨大な絵画を制作されました。1週間でなくなってしまう、いわば見頃というべき時間を兼ね備えた作品だったようです。

2019年にはインドのシュリシュティ芸術大学の「Srishti INTERIM- Festival of Ideas」というイベントに向け、学生たちと一緒に巨大なバルーンの作品を現地で制作しました。まず学生に触ってもらい、「何を感じ、そして自分たちは、何を作れるのか」を問うことからスタート。

インドでは正式な服を、ミシン屋さんに頼み、作ってもらう慣習があるようで、型紙をもとにミシン屋さんにバルーンを制作してもらったそうです。作品は野外で展示をし、地元の方とコミュニケーションがとられました。

次は2021年のコロナ禍、金沢21世紀美術館で開催された「ぎこちない会話への対応策̶第三波フェミニズムの視点で」の紹介です。アーティストである長島有里枝氏により、キュレーションされた作家10名による展覧会。

その時に感じた「想い」とは、、、

ひとつの展覧会がふたつに分かれたことは、決して悪いことではなく、そこに大事なことが詰まっていることでもある。長島さんの情熱によって、カタログは繊細かつ視覚的にも優れた構成で、今でもとてもいい展覧会だったと振り返ることができます。と語っていただきました。

本学の図書館でも閲覧できるようにします!!

そして後半

2018年から出展されている「UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川」、SLなどが走ることで有名な大井川鐵道の無人駅が主な展示場所。さとう先生は、2001年に始めたサトゴシガンというプロジェクト(オブジェ作品をご自宅などに貸し出し、一緒に生活する様子を写真に撮ってもらう)を静岡県島田市内で実施し、抜里駅に写真とオブジェ作品を展示されたそうです。

また野鳥を取るための罠「くぐりこぶち」というタイトルのもと、人間があたかも野鳥となり、エサにつられて迷い込む体験ができる作品などを紹介していただきました。

そして最後は、今年の6月9日(日)まで開催されていた「黄金町バザール2024」での作品を紹介。さとう先生が過去に出展された「ヨコハマトリエンナーレ2020」の作品と併せて作品の解説をされました。

特殊な時代背景を持った黄金町は、市をあげてアートの街として創造されてきました。アーティストの日常の生活、制作、そして展示を通して、次の世代への滋養を日々蓄えていいる様子を表しているそうです。

京急電鉄の高架下での巨大な作品。丸みを帯びた形体や明るい青色は、極小の空間がひしめき合う建物との対比を鑑賞者に投げかけながら、どこかほっこりと、心を柔らかくしてくれる作品でもありました。

今回のご講義は、学生時代から現在まで、第一戦で活躍し続けることは、何が大切かを作品を通して知る機会となりました。人、場との関係性から紡ぎ出される言葉は、柔らかく心に響くものでした。

さとう先生、ご講義ありがとうございました。

2024年6月24日月曜日

6月3日「芸術の現場から」画家 稲垣美侑先生

今回の「芸術の現場から」の授業では、画家の稲垣美侑さんを講師としてお迎えしました。
稲垣さんは東京藝術大学大学院を修了、身近な住環境や自然への観察行為によって、私たちの生きる場所やそこに広がる景色について、作品制作を通じて問い続けていらっしゃいます。
今回は「”ここ”からはじまる景色をめぐる考察」というタイトルのもと、稲垣さんの学生時代から現在に至る制作活動を丹念にお話しいただきました。

稲垣さんは、学生時代の自画像作品を一例に、自分/他者はどのように成立しているのか、という問いを描く行為を通して考え、周囲の環境に目を向けるようになったそうです。家、街、そして宇宙と、自分(主体)とは外側に無限に拡大していく世界との関係によって見えてくるものではないかという気づきから、稲垣さんの制作は広がっていきます。

キーワードとなるのは「所在」すなわち私たち自身が存在する場所、です。稲垣さんは、「鳥の目線」と「虫の目線」、すなわち全体を俯瞰する視点と、周囲をどこまでも詳細に観察する視点を行き来することを大事にして、絵を描いたり展示空間を構成したりしているそうです。

学生時代には、ヨーロッパでの視察や留学を経験された稲垣さん。そこでも、セザンヌなどの著名な画家の作品と、その作品が生み出された土地や自然環境との関係を探るなど、やはり場所をキーワードに研究を進められたそうです。

絵画をベースとしつつ、インスタレーションやワークショップなど多様な仕方で表現をされている稲垣さんのお話は、参加した学生たちの制作意欲も刺激したようです。

稲垣さん、このたびは貴重なご講義ありがとうございました!

2024年5月28日火曜日

5月20日「芸術の現場から」画家 山口晃先生

5回目の「芸術の現場から」のゲスト講師は画家の山口晃先生をお招きしました。

群馬県桐生市出身の先生は、高校まで群馬で過ごしたこともあり、本県にゆかりのある現代美術のスターともいえます。「アートマネジメント特講3」の非常勤講師、杉浦幹男先生のご尽力もあり、本学にお越し頂くことが叶いました。

そして、今回は県民公開講座ということで、外部の聴講者も多く見込まれたため、講堂に会場を移しての開催となりました。開場時間前から講演を楽しみにしていた一般の方も多くいらっしゃいました。大学院生には受付も手伝っていただきました。

登壇直前まで締め切りの原稿を執筆していた先生でしたが、講義の時間になると壇上を軽やかに動きながら、穏やか優しい口調でお話を始めまてくださいました。

お話の中心は先生の幼少期から大学生くらいのご経験、子どもの時の絵、どういった気持ちで絵を描いていたか、絵を習いに行った先生のこと、同級生の友人について、予備校時代、大学に入って絵に向き合ったこと、そして挫折と苦しんだこと、、、などスライドの画像を指した次には、ホワイトボードに描きながら当時の状況を話すという独自のスタイルで聴衆を飽きさせません。




しかし、ゆるやかなお話の中に、絵に向き合ってきた先生ならではの本質的な部分がキラリと光って現れます。子どもがどのように世界をとらえているのか、人は成長と共にどうして周囲の目を気にし、自身のうちにあるものを表現できないのか、また自身にうそをつかずに描いたものはやはり他者を魅了する作品になっていく・・・など。

 これらの言葉に、大学生の学生たちはずいぶん救われたようです。中学校の美術資料集の表紙で山口先生の作品に出合った学生も多く、「今日先生に直接会えて感激した!」という感想が見られました。また、学生が日々制作に向き合う中で感じる悩みや葛藤についても、先生のお話から突破していく言葉やヒントをたくさんもらうことが出来ました。

講演後には先生に直接質問する姿も多数みられ、学生の質問や(悩み相談?)にも個々に丁寧に対応いただきました。文化情報学科の鈴木先生も長らくファンであるということで駆けつけてくださいました。先生、貴重なお話をありがとうございました。

最後に、先生のお招きにあたり、ミヅマアートギャリーの長田様に大変お世話になりました。ここでも深く感謝申し上げます。

 

先生の作品は現在群馬県内の美術館で観ることが出来ます。ぜひ足をお運びください。

群馬県立館林美術館「シンフォニー・オブ・アート イメージと素材の饗宴」

  2024623日(日)まで


大川美術館THE 日本画 ―日本画らしさとは 大川美術館のコレクションを中心に」

2024630日(日)まで


また、東京では以下でもご覧になれます。

山種美術館「犬派?猫派?」

20247/7() まで


 

写真/渡辺典子先生(英米文化学科)*最後の写真は美学美術史学科教員撮影


2024年5月9日木曜日

2024年度「芸術の現場から」 プロジェクトコーディネーターの竹丸草子先生によるご講義

5月6日は、本学卒業生でプロジェクトコーディネーターの竹丸草子先生(アーツカウンシル東京 事業部事業調整課 社会共生政策担当係長)にお越しいただきました。
美術教育、アートプロジェクト分野でのコーディネート論がご専門です。

ご講義は「アートと人々が交わる場のコーディネート アーティストワークショップ実践現場から考える」と題して、コーディネーターの定義づけとともに、具体的なワークショップの事例を紹介してくださいました。

竹丸先生は、コーディネートの概念である「各部を調整し、全体をまとめること」に、新たに「つくる 場をつくる/関係性をつくる」ことを追加して、従来の概念を拡張し、「場づくりのコーディネート」を提唱しています。
そこで、コーディネーターとは、「場を開き、場づくりによって、人とその人自身の外部との関係性を構築する人」であると定義づけます。

続けて、実践例を2つ紹介してくださいました。1つめは、彫刻家と子どもたちとをつなぐ「触覚による鑑賞ワークショップ」です。事前の周到な打合せを経て実施したワークショップでは、竹丸先生がファシリテーターとなって鑑賞への導入役を果たします。
子どもたちは、彫刻を触って自分で発見したことを他の子どもたちと共有するようになり、さらに彫刻家と対話することで制作の思考や態度をも共有していきました。

実践例の2つめは、福祉事務所でのアートプロジェクトです。ダンスや「ひみつ基地づくり」のワークショップによって、利用者たちの普段とは異なる反応を知ることで、職員たちの支援に関する考え方までもが変わるということが起きました。
これによって「アートを介した関係性の再構築」がなされました。

竹丸先生は、アートプロジェクトのコーディネーターは「そこにいる人々が自分らしさや専門性を発揮できるよう、働きかけ」、関わるすべての人々が「芸術的知性」によって創造的に、自分らしく生きるための「場づくり」をしているのだと解説します。


竹丸先生のご講義を聴講して、学生たちは、コーディネーターという専門家と、アートへの多様な関わり方についての知見が高まったようです。
竹丸先生、どうもありがとうございました。

2024年4月25日木曜日

4月22日「芸術の現場から」群馬交響楽団 上野喜浩さん

 ゲストをお迎えしての二回目の「芸術の現場から」では、

群馬県民ならだれもがその存在を知り、子どものころから触れてきた

群馬交響楽団の音楽主幹 上野喜浩さんにご講義をいただきました。

上野さんのお仕事は楽団全般のマネジメントで、裏で楽団を支えるキーパーソンとなる方です。

楽団員や事務局の調整、演奏会の日程、曲目、演奏会のバリエーションを考えていったり、

広報活動や新たに楽団を知ってもらう様々な戦略を企画し、実践されています。

音楽を愛し、おおらかなお人柄で、これまで墨田区や京都での

ご経験も踏まえ、群馬で三年目の春を迎えました。


ご講義では群馬交響楽団と地域とのかかわりについて最も

重点的に触れた後、日本の様々な楽団についてデータを惜しげもなく

みせ、お話を進めてくださいました。

学生たちは必死にメモを取る姿も・・・やはり数字になっていると

楽団の立ち位置や強みが分かりますね。大変勉強になりました!


ご講義の途中では群響の動画もたくさん紹介してくれました。

NHK前橋放送局開局90年の節目に作られたテーマ演奏(ほっとぐんま630)や、

若手楽団員が伊香保を楽しみながら、演奏し、群馬の魅力を発信する動画も紹介してくれました。

https://www.youtube.com/watch?v=KFDIUnfTgZg

草津Verもあります!

https://www.youtube.com/watch?v=0Fa-vfhIGF8


最後はゆったりと時間を取っての質問タイム。

オーケストラに参加している学生や、つい先日の定期演奏会を聴きに行ったという学生もいて、質疑応答は大変盛り上がりました。

県民の方で聴講された方も、

「群響の舞台裏のお話を聞けて本当に良かった。また演奏会に行くときに

視点が変わりそう」と大変満足な様子でした。

今年もシーズンは始まったばかり、様々なコンサートが予定されています。

これからも多くの方に音楽を通して感動を届けてください!


上野さん、ありがとうございました。


2024年4月24日水曜日

4月15日「芸術の現場から」 ~いつかは「わたし」になれるの? 堀川理万子先生(絵本作家)

 4月15日、画家で絵本作家の堀川理万子先生にお越しいただきました。


1「幼少期の絵画と海のアトリエについて」

 講義は、堀川先生の幼少期(幼稚園の時)の絵画作品「青いみかんとバナナ」を見せていただきながら、その絵画を描かれた時の話から始まりました。みかんの後ろにあったバナナが隠れてしまってみかんの上に乗っているようになってしまったのです。

思い通りに描けなかったショックをいまでも覚えているとのことでした。



次に「Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞」「講談社絵本賞」「小学館児童出版文化賞」など多くの賞を受賞された絵本作品「海のアトリエ」の話に移りました。

この担当の編集者から厳しい指摘を繰り返し受け、しょげかえる日もあったそうですが「大人になると叱ってくれない」「叱ってくれることはとても大切だ」と考え、積極的に取り組みまれたとのことでした。今ではこの編集者は「怖いけど大切な人」となっているそうです。

このようなプロセスを経て、「海のアトリエ」の制作には約5年かかったとのことでした。

編集者とのやりとりで堀川先生は自らが描きたいものだけでなく、多くの人が受け入れてくれる作品を作ることの重要性を理解したそうです。「海のアトリエ」は様々な賞を受賞しましたが、賞は単なる取得物ではなく、授かるものだと語っていただきました。


2「戦争について」

 

堀川先生の現在の作品テーマ「戦争」について、話がありました。

「現代においても、地球のどこかで戦争が続いています。日本は原爆を長崎と広島で経験した唯一の国です」と語り、映画「東京裁判」の話に移りました。この映画は太平洋戦争の軍事裁判を描いたドキュメンタリーであり、日本が戦後の道をどのように歩んできたかを理解するためにも、楽しい映画だけでなく、このような映画も観るべきであると学生たちに強くすすめました。また、堀川先生自身も、父親の戦争体験に触発されて、戦争中の実体験を絵にされました。

さらに、堀川先生は沖縄戦を体験した87歳の男性から聞いた話を元に絵を描こうと試みましたが、死体を描くことに抵抗がありました。初めは草で隠して描きましたが、「そうじゃない!」と指摘されてしまったそうです。しかし、男性とのディスカッションで「本当のものを見た人は絵が強かろうが関係ない!」と気づき、堀川先生は絵を完成させました。心に鞭を打たれたような気持ちになり、今後の絵を制作するにあたっての指針ができたと述べられました。


3「こころの栄養」

 絵を描くことだけでなく、こころの栄養となる「好きな言葉」も語っていただきました。

みうらじゅんの前向きな言葉「不安タスティック」や石川啄木の歌からは、他人と比較することへの警鐘が鳴らされ、短歌の魅力や心の慰めについても触れられました。また、島田修三やチャールズ・ダーウィンの言葉を通じて、変化や負けることの意義が語られ、「変わっていい」という考え方が大切であるとのメッセージが伝えられました。

 4「ティファニーで朝食を」

 「ティファニーで朝食を」を中心に映画の話をされました。

この映画では、主人公が自分自身の問題だけでなく人間関係で悩む姿が描かれています。主人公は田舎で獣医と結婚し、その後単身ニューヨークに移り住みますが、新たな恋人ができそうな中で、獣医が彼女を迎えに来ます。バスでのやりとりでは、「一緒に帰ろう」「ダメなの」と抱きしめる場面があります。この映画から得られる教訓として、嫌な人とは距離を置くことも大切ですが、離れたい人には抱きしめるような優しさを示すことが、より良い関係を築く手段であることが示唆されました。


5「非営利組織が持つ特性や表現する仕事の重要性」

最後に、非営利組織の特徴や仕事の重要性について話がありました。JBBY(日本国際児童図書評議会)の支援は、お金を稼ぐことよりも、社会や個人の健康や幸福に貢献することを重視しています。そのため、非営利組織との協力は共感と理解を促進するためにも重要です。アートや表現を通じて、メッセージがより深く浸透し、人々の心に訴えかけることができると述べられました。

また、他人の作品を解釈する際には、その解釈の深さや個性が重要だということも述べられました。自分なりの解釈で作品を楽しむことが、より意味深い経験をもたらし、表現の豊かさを引き出すことができるというメッセージが伝えられました。


 

講義終了後、学生からの質問から堀川先生は作家としての生き方について話されました。「何かを伝える使命がある」「誰かの役に立ちたい」という言葉を述べられました。その言葉により、今後の堀川先生の活動に、学生たちの関心が集まったことを感じさせられました。

堀川先生、愛情たっぷりのご講義、ありがとうございました。