美学美術史学科では、美学、日本美術史、西洋美術史、美術実技、アートマネジメントの各分野を学ぶことができます。このブログとX(https://x.com/aesth1)では、学科の活動の最新ニュースを紹介しています。学科のより詳しい紹介は、本学HPの学科案内をご覧ください。 https://www.gpwu.ac.jp/dep-pos/dep/lit/art/index.html
2024年10月13日日曜日
2024年度後期授業「西洋美術史実地研修1」が始まりました
様式の違いや技法について学生同士で話し合う場面も見られ、作品実見によってさらに学びが深まったようです。
2024年8月7日水曜日
美学美術史学科 山崎真一 教授、渡辺五大 非常勤講師が出展している国際展「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」のお知らせ
新潟県十日町市、津南町全域を舞台に、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024 歓待する美術」が開催されています。
2000年から3年に1回のペースで開催され、今回で9回目を迎えます。美学美術史学科 山崎真一 教授と渡辺五大 非常勤講師が力五山(加藤力、渡辺五大、山崎真一のアートユニット)として、2009年から、川西エリアの高倉集落で発表を続け、今回で6回目。
作品タイトル《時の回廊 - 十日町高倉博物館 -》は、初の常設展示になりました。
概要
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024 歓待する美術
会期 2024年7月13日(土)~11月10日(日) 火水定休
会場 越後妻有地域(新潟県十日町市、津南町) 川西エリア 高倉集落
主催 大地の芸術祭実行委員会、NPO法人越後妻有里山協働機構、
独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
展示場所となる緑豊かな高台にある旧高倉小学校体育館は、さわやかな心地よい風が吹き抜けています。
浮世のざわめきを一瞬でも忘れることができる場所です。
ぜひ高倉にお越しください。
力五山HP
https://yamashin08273.wixsite.com/my-site-2
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024
https://www.echigo-tsumari.jp
大地の芸術祭 越後妻有 力五山紹介ページ
https://www.echigo-tsumari.jp/art/artist/rikigosan-riki-kato-godai-watanabe-shinichi-yamazaki/
大地の芸術祭 全体のリーフレット
力五山のリーフレット
旧高倉小学校体育館外壁に2009、2022年に集落の方を描いた壁画を設置
内部の風景 光、音、声(集落の方)、映像によるプログラムを展開
2024年7月30日火曜日
オープンキャンパスが開催されました。
7月20日(土)、21日(日)の2日間にわたり、オープンキャンパスが開催されました。
美学美術史学科は、20日(土)の9:30~11:00の90分間、講堂にて学科説明会を行いました。
今年は、300名を超える多くの方が参加されました。
内容は、学科説明、入試説明、在校生による学生生活の発表、そして藤沢桜子先生による模擬授業。
終了後は、個別相談会を実施しました。
また、実技棟で開催されている実技ゼミ生(絵画、デザイン)による展覧会も好評でした。

美学の学生がデザインしたポスター

講堂風景

入試説明


学生2名による発表

藤沢桜子先生による模擬授業
授業内容は、
中心人物の傍らに描かれる動植物や物たちは、絵画作品を読み解くうえで重要な鍵となっていることがあります。我々にとって身近なものも少なくありません。それらがどのような意味を持っているのかを考えてみました。

実技棟での作品展示風景
オープンキャンパスに参加された皆様、
大変暑い中、お越しいただきありがとうございました。
2024年7月29日月曜日
7月22日「芸術の現場から」 現代美術家 井上尚子氏
7月22日(月)の「芸術の現場から」には、現代美術家の井上尚子さんをお招きして、ご講演いただきました。

井上さんは、環境、文化、歴史を匂いの記憶から楽しむ「くんくんウォーク®︎」を教育機関、美術館等で開催していらっしゃいます。
今回の講演では、まず、私たち人間がどのようにして匂いを感じているのかからていねいにご説明いただき、そのうえで、井上さんの取り組みをたっぷりご紹介いただきました。

*「匂い分子と嗅覚受容体の仕組み」東原和茂「化学受容の科学」2012.G-10:図20をもとに作図
匂いは、目に見えません。だからこそ、自分で考えること、そしてそれを言語化してコミュニケーションをとることが重要なのだと井上さん。
また、人それぞれどのような嗅覚受容体を持っているのかが異なっているために、同じものに接しても、それぞれの人が感じる匂いは異なるのだそうです。あまりにも私たちの日常生活で当たり前になっている匂いを嗅ぐことには、こんな奥深さがあります。
井上さんは、青森や横浜、丸の内などなど国内のほか、アムステルダムやミュンヘンなど海外でも、さまざまな展示やワークショップを通じて匂いから人の記憶や場所の文化・歴史を探るプロジェクトを手掛けられています。
匂いという姿の見えない、人それぞれのものだからこそ、それぞれの価値観や文化を知る貴重な回路になり得るということが、お話から伝わってきました。
たとえば、国際芸術センター青森(ACAC)でのプロジェクト「Life is smell 〜素数の森〜」。井上さんはまず青森中のさまざまなものの匂いを嗅いでまわりながら、現地の人々のお話のなかで、3などの素数が繰り返し登場することに着目します。そこで青森=素数の森と見立てながら、現地の人々が思い出の匂いを含むものを持ち寄るワークショップを開催して、それを元にインスタレーションの展示空間を構成していきます。また、青森の森をみんなで歩き回り、そこにある匂いを収集する「くんくんウォーク®︎」を開催したそうです。思い出の匂いと、新しい匂い。さまざまな匂いとの出会いを語り合うことで、青森という場所が複層的に浮かび上がってきます。

*Library of smell at Museum Villa Stuck in Munich
ミュンヘンのプロジェクト「Die Bibliothek der Gerüche」では、ドイツの街・ミュンヘンにて滞在制作を行ったそうです。街の古書店を回って、さまざまな匂いの本を集めてきます。科学者とのコラボレーションを通じてそれらの匂いの成分を分析してみたり、古本の匂いを囲んで現地の市民と連日ワークショップを行ったりと、本の匂いの姿が多角的に浮かび上がります。
また講義のなかでは、本学科講師・青田の幼少期の匂いの記憶について、井上さんとお話しする時間も。

特に0歳のときの記憶は自分では難しいので、母と話して思い出してもらったりと、匂いについてのコミュニケーションの奥深さを体感することができました。
質疑応答では、匂いに興味を持ったきっかけは?という質問から、学生時代にマーブルチョコを床一面に敷き詰める作品を制作したときの匂いの受け止め方が人によって違ったことをお話しくださいました。動物園で動物の排泄物の匂いについて語り合うプロジェクトのお話からは、それぞれの動物の排泄物の匂いの違いを楽しむことで、排泄物=ただ「臭い」という固定的な価値観を揺さぶられるという可能性をご提示いただいたと思います。
学生たちにとっても、匂いという感覚のポテンシャルを捉え直す素晴らしい機会になりました。井上さん、ありがとうございました。
2024年7月7日日曜日
7月1日「芸術の現場から」 七宝作家 春田幸彦氏
「現代アート 新しい有線七宝の世界」
今回の「芸術の現場から」のゲスト講師は、七宝作家の春田幸彦先生をお招きしました。
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美術に進まれた経緯
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先生は幼少の頃から美術に興味を持ち、地元静岡県清水市の清水南高校の美術コースに進学されました。
ビーバップハイスクールのような不良映画に影響を受け、不良ファッションに身を包みながら作品制作に打ち込んでいたとのことです。
東京にて2浪した後、東京藝術大学美術学部工芸科に進学され、1年時には七宝作家の岩田広己氏(当時学部4年生)の作品に感銘を受け、七宝作家を志すことになりました。
卒業後は東京藝術大学工芸科の非常勤講師を経て、オリジナルジュエリーの企画・製造・販売を手がける会社「studio SORA」に勤務されました。そこで出会った丸山聡社長の生き方が今の先生の姿勢を形成しています。「できないと言われたことを最後までやれ!」「世間で売っているものは良いと思うな!自分で開発しろ!」という丸山社長の言葉は、現在の作品制作にも活かされており、七宝制作道具も自作されています。
また、大学時代から続けている趣味としてツーリング同好会に所属しており、キャンプに必要な道具やバイクの部品を自ら制作しています。その同好会のメンバーは大学時代の同級生たちで、今でも大切な友人であるとのことです。
学生たちには「今の友達を大事にし、長く末永く関係を築いてください」とのメッセージを送られました。
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七宝について
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続いて、先生は七宝の世界について歴史を踏まえてお話しされました。
・七宝とは、金属の表面にガラス質の釉薬を付着させる技法で、主に銅、銀、金を使用します。その美しさは7つの宝石に例えられ、「七宝」と呼ばれています。
・七宝の技術は、中国から茶道具などを輸入する形で日本に伝わり、日本国内で研究が進められました。桃山時代には、七宝の技術が襖に用いられるようになり、特に梶恒吉の作品が有名です。ドイツのゴッドフリード・ワグネルは、透明度の高い釉薬を開発し、その技術は日本でも大きな影響を与えました。
・川崎重工の創業者である川崎正蔵も、七宝の発展に貢献しました。彼は「宝玉七宝」として知られる技法を開発し、その名を広めました。
・七宝には、有線七宝と無線七宝の二つの技法があります。有線七宝は、色と色が混ざらないようにする技法であり、この技法で成功を収めた並河靖之は、京都に記念館が設けられるほどの名工です。一方、無線七宝は濤川惣助によって発展し、彼の作品は赤坂の迎賓館で見ることができます。
しかし、先生が所属する日本七宝作家協会の会員数は年々減少しており、七宝技術を学んでも経済的に結び付かない現状があります。文化学園大学で指導している学生も、卒業後に七宝を活かせる職種に就くことは難しいとのことです。このような状況から、先生は七宝を「絶滅危惧工芸」と呼び、危機感を訴えています。
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七宝とROCKについて
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美術を始める前から、先生は中学時代からよく聴いていたROCK(音楽)に影響を受けていたとおっしゃっていました。
ネオロカビリーやモッズなどのファッションにも影響を受けており、自身の七宝作品のタイトルなどにもその音楽の要素を取り入れています。
ROCKの話の中で、先生はタイマーズというバンドについてもお話しされました。タイマーズの代表曲「デイ・ドリーム・ビリーバー」はザ・モンキーズのヒット曲のカバーですが、日本語の歌詞で新たな魅力を加えています。この歌詞は、ボーカルのゼリー(忌野清志郎)が母親を亡くした後に育ての母親への思いを歌にしたもので、清志郎が現実世界を白昼夢のように感じていた様子が描かれています。この曲はアルバム「THE TIMERS」に収録されており、先生は未開封のCDを持参し、学生たちに貴重な資料として見せてくださいました。
2009年に清志郎は亡くなりましたが、今でも世間の声を代弁する歌手として、多くの人々にメッセージを伝え続けています。先生も清志郎の思想に影響を受け、後世に受け継がれる作品を意識しながら、制作を続けているとおっしゃっていました。
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春田先生の七宝作品について
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春田先生は、七宝の世界から自身の想いを発信したいと考えました。彼の七宝作品のモチーフは、大好きな爬虫類から着想を得ています。蛇などの爬虫類は恐怖の対象であると同時に、信仰の対象にもなっています。蛇は人間の欲望によりベルトや鞄に変えられており、命の重さが軽視されているのではないかと考え、そのメッセージを「有線七宝」の技術でアート作品として伝えることにしました。
そして2007年、春田先生はこのテーマを踏まえた渾身の七宝作品「反逆」を2年かけて完成させました。しかし、専門家からは「自己満足」「好みが分かれる」「密度があってもしょうがない」と低評価を受けてしまいました。それでも自身のスタイルを曲げずに制作を続けた結果、キュレーターのグレゴリー・アーバイン氏に認められ、2017年にロンドンのV&A(東芝ジャパンギャラリー)に収蔵されることとなりました。
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春田先生の七宝作品の紹介
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春田先生は自身の作品のコンセプトについて、以下の4つを丁寧に紹介されました。
有線七宝綿蛇鞄置物「反逆」
このカバンは組織社会を表しています。意図せずにカバンとしての用途を与えられた錦蛇は、同調圧力によって意志を抑えられた個人の集合を象徴しています。組織の一員でありながら満足せず、常に疑問を抱いて意見を伝えようとする姿を表現しており、体制に従順な態度を示しつつも反逆の時を狙っているというコンセプトです。
置物「無駄に、無駄口、無駄遣い」
レザー素材にされた錦蛇が「口と財布は締めるが得」ということわざを体現しています。余計なことを話したり、お金の使い方を誤って破滅に追い込まれる可能性を表現しており、自らが犠牲となってその教訓を訴えています。
「狂愛の贄筥」「二十日鼠幼体生贄」
二重箱の中で、蛇がハートをかたどり飼い主への信頼と愛情を体で表現しています。
「始まりと終わりのカラ」
髑髏と蝉の抜け殻をテーマにした作品です。般若心経の教え「命とは何か」を描いており、肉体は単なる物質で魂・命は永遠に存在するという考えを表現しています。そしてもう1つの髑髏の作品「有線七宝髑髏九相図置物Catharsis」は春田先生が愛するお祖母様の死をきっかけに制作され、命のうつろいを感じて欲しいとの思いが込められています。制作することで、先生自身の辛い気持ちを落ち着かせることができたと述べられました。
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有線七宝の実演
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春田先生は、上記の作品紹介だけでなく、有線七宝の実演も行ってくださいました。この技法の複雑な工程や細かな技術を高い集中力で短い時間で見せていただきました。有線七宝は非常に繊細なデザインや複雑な模様を表現できる技法ですが、素人にはなかなか真似のできないことがわかりました。
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ジブリ美術館収蔵作品の紹介
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宮崎駿監督のジブリ美術館には、春田先生の作品が収められています。美術館の一番下の階層には、井戸のポンプの周りに春田先生の有線七宝のオーナメントが4枚飾られています。また、春田先生と友人が制作したロボット兵が屋上に設置されており、そのロボット兵の足元には春田先生の提案で七宝の紋章作品が設置されました。このように、春田先生は単に要望に応じるだけでなく、自身の想いや提案をクライアントに伝える意志を持っており、デザイナーではなく作家だと言うことを確信しました。
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春田先生のご講義により、工芸をアートに昇華させ、命の重さを伝える作品を通して、世の中に疑問を投げかけ、伝統を進化させることを目指しておられることがわかりました。また、技術的な価値を伝えることにも重きを置いていらっしゃいます。先生のお話は、鋭いメッセージを含みながら、学生たちに七宝の歴史とその危うさ、そして未来への可能性を丁寧に示してくださいました。
春田先生、このたびは貴重なご講義をありがとうございました。
2024年7月2日火曜日
6月17日「芸術の現場から」美術作家 大石 歩真先生
今回の「芸術の現場から」のゲスト講師は、NPOクロスメディアしまだ代表理事の大石 歩真先生をお招きしました。
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静岡県島田市のご出身の大石先生は、静岡で広告会社、名古屋でPR会社取締役をつとめた後、Uターン帰郷し、地域活性を専門に扱う「クロスメディアしまだ」を設立、その後、NPO法人化しました。
コミュニティサイトを活用した市民活動活性化事業を皮切りに、地域づくり分野での事業を開始。「UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川」の開催をはじめとするアートによる地域再生事業や、子ども向けの社会教育事業、地域情報の発信事業など、「スキだらけのマチづくり」をテーマに、人と資源をクロスさせる新しい視点で展開。令和5年には静岡県文化奨励賞を授与されていいます。
大石先生がプロデュースした芸術祭の取り組みを軸に、地域の課題と、どう向き合っていくか、どのような場所づくりを目指しているのか、ご講義いただきました。
まずは、活動の拠点である島田市のお話から。
お茶の産地として知られる静岡県。6月のこの時期は、2番茶の葉が収穫されるタイミングです。
テーマとなっている「スキだらけのまちづくり」。スキには、《好き》や《隙間》などの意味が込められています。地域に暮らす人の価値観はさまざま、違いがあって当然。その違いの中に隙間が生まれる。その隙間を繋いでいけるよう、コーディネートしていくことに魅力を感じたそうです。切り口としての情報支援、子育て支援、中間支援、そして芸術文化の支援など、分野を横断して取り組んでいます。

アートによるまち作りの可能性を実感し始めたのが、2018年からスタートした「UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川」。
まずは、2024年2月に開催された芸術祭のPVを紹介。
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なぜ「UNMANNED(無人)」をテーマにしたのか。
島田市の人口の推移が紹介、地域基盤の変化により、さまざまな「無人」が形成されていきました。外部環境としては、コロナ禍で見られた都市部の無人化、効率化が進むことで進む無人化など。内部環境としては、「空き家」「廃校」「祭り・祭事」「耕作放棄地」「鉄道」「無人駅」など。「無人」は、身近に存在し、現代を象徴しているかのようでした。
ここで着目したのは、SLやトーマス機関車が走る大井川鐵道、全部で20ある駅のうち、16の駅が無人駅です。「UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川」は、駅から始まり、駅周辺のエリアに広がり、展開されています。
その過程で生まれたものとして、アーティストが制作のために滞在する古い民家があります。大石先生はこの民家をNPOで買取り、制作の場であり、地域住民とアーティストのコミュニティスペースとして、生まれ変わらせます。改築の過程で残ったのが、1階にある広い和室。作品が存在する場でもあり、地元の人が、寄り合い、コトが生まれる場にもなっています。
地元の方たちは自らを「抜里(抜里)エコポリス」と名付け、お揃いの青いジャンパーまで制作しています。初夏には蛍の鑑賞会が開催し、エコポリスの方も大活躍。

大石先生は、アーティストと関わり始め気づいたことがあります。
地域で暮らす人にとっては当たり前すぎて価値を見出せなかった、忘れ去られたものやこと、場が、アーティストからみれば面白く魅力的なテーマになる。

今まで関わってきたアーティストから感じていることとして、制作などにおけるアーティストと協力者の関係は、指示するものではなく、上下の関係がない対等な関係である。だから協働で生み出すことができる。1つの解しか導き出せない問いではなく、アートも地域も正解がないことが、協働で何かを作り出すことができる要因になっている。
減っていくことをマイナスと捉えず、地域でできないことは、できる人がやればいい、それが外部の人でも大歓迎。大石先生は、「地域は大きな器を作ること」とイメージしています。
最後に、大石先生の学生時代のお話から履修生へのメッセージです。
中学や高校から、バックパッカーとして、世界中を旅し、大学時代にも数多くの国を訪れていた大石先生。卒業後は広告代理店で働き、もっといろいろな人と関わりたいと思っていたそうです。
「地域を面白くしていくためには、ばかもの、若者、よそ者、この3つがとても大切です。地域との関わりを固く考えず、自分ができることを考える。例えば漫画が好き、とか。その漫画を私出発のものとして大事にすることから地域づくりに参加することもよいと思うのです」
とても素敵な低音ボイスの大石先生。人を引きこむ魅力的な声と言葉に、予定されていた時間があっという間に過ぎていきました。
大石先生、ありがとうございました。
2024年6月25日火曜日
6月10日「芸術の現場から」美術作家 さとう りさ先生
今回の「芸術の現場から」のゲスト講師は、美術作家のさとう りさ先生をお招きしました。
大学院の時に「パルコアーバナート#7」大賞を受賞、修了後にはフィリップモリスアートアワードグランプリを獲得するなど、華々しく作家活動をスタート。現在も横浜を拠点に国内外で精力的に作品を生み出しています。
ご講義は、さとう先生の大学時代から、現在に至るまでに制作された作品のスライドを中心に、どういったことを考え、どのように周りを巻き込み、制作していくのかなど、貴重な体験をもとに話していただきました。
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さとう先生が大学に在籍されていた1990年代は、インスタレーション、そして写真や映像による表現がクローズアップされ始め、絵画、デザイン、工芸、彫刻などの領域を超えて、さまざまな形態の作品を見ることができるようになりました。
東京藝術大学デザイン科出身のさとう先生は、デザインをしない時代だったと。
学生時代に制作された作品が続きます。

膨らませて丸みを帯びた形に惹かれたことは、現在も続いているようです。空気を素材としたバルーンや強烈なニオイを放つFRPなど、いろいろなことを試し、可能性を広げていきたいと欲張っていたと振り返られました。
NHKの教育番組「わたしのきもち」の中での作品の事例も紹介していただきました。
国内外を問わず、ワークショップを経験されているさとう先生。
静岡県の三島にあるヴァンジ彫刻庭園美術館ではチューリップを使った「インフィオラータ」を開催。地域の方々と一緒に巨大な絵画を制作されました。1週間でなくなってしまう、いわば見頃というべき時間を兼ね備えた作品だったようです。


2019年にはインドのシュリシュティ芸術大学の「Srishti INTERIM- Festival of Ideas」というイベントに向け、学生たちと一緒に巨大なバルーンの作品を現地で制作しました。まず学生に触ってもらい、「何を感じ、そして自分たちは、何を作れるのか」を問うことからスタート。
インドでは正式な服を、ミシン屋さんに頼み、作ってもらう慣習があるようで、型紙をもとにミシン屋さんにバルーンを制作してもらったそうです。作品は野外で展示をし、地元の方とコミュニケーションがとられました。

次は2021年のコロナ禍、金沢21世紀美術館で開催された「ぎこちない会話への対応策̶第三波フェミニズムの視点で」の紹介です。アーティストである長島有里枝氏により、キュレーションされた作家10名による展覧会。
その時に感じた「想い」とは、、、
ひとつの展覧会がふたつに分かれたことは、決して悪いことではなく、そこに大事なことが詰まっていることでもある。長島さんの情熱によって、カタログは繊細かつ視覚的にも優れた構成で、今でもとてもいい展覧会だったと振り返ることができます。と語っていただきました。
本学の図書館でも閲覧できるようにします!!

そして後半
2018年から出展されている「UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川」、SLなどが走ることで有名な大井川鐵道の無人駅が主な展示場所。さとう先生は、2001年に始めたサトゴシガンというプロジェクト(オブジェ作品をご自宅などに貸し出し、一緒に生活する様子を写真に撮ってもらう)を静岡県島田市内で実施し、抜里駅に写真とオブジェ作品を展示されたそうです。
また野鳥を取るための罠「くぐりこぶち」というタイトルのもと、人間があたかも野鳥となり、エサにつられて迷い込む体験ができる作品などを紹介していただきました。

そして最後は、今年の6月9日(日)まで開催されていた「黄金町バザール2024」での作品を紹介。さとう先生が過去に出展された「ヨコハマトリエンナーレ2020」の作品と併せて作品の解説をされました。
特殊な時代背景を持った黄金町は、市をあげてアートの街として創造されてきました。アーティストの日常の生活、制作、そして展示を通して、次の世代への滋養を日々蓄えていいる様子を表しているそうです。
京急電鉄の高架下での巨大な作品。丸みを帯びた形体や明るい青色は、極小の空間がひしめき合う建物との対比を鑑賞者に投げかけながら、どこかほっこりと、心を柔らかくしてくれる作品でもありました。

今回のご講義は、学生時代から現在まで、第一戦で活躍し続けることは、何が大切かを作品を通して知る機会となりました。人、場との関係性から紡ぎ出される言葉は、柔らかく心に響くものでした。
さとう先生、ご講義ありがとうございました。