2019年2月3日日曜日

「芸術の現場から」(県民公開授業) 学芸員の大木綾子先生による御講義

リレー講座の第14回(最終回2019.1.29)は、前しもだて美術館学芸員、筑西市役所職員の大木綾子先生にお越しいただきました。


大木先生は、本学文学部美学美術史学科の卒業生です。

しもだて美術館は茨城県筑西市の公立美術館で、文化勲章受章作家である陶芸家の板谷波山と洋画家の森田茂をはじめ、郷土にゆかりのある作家たちの作品を収集・展示しています。

筑西市出身の板谷波山と森田茂を紹介

今回は「地方における美術活動―茨城県筑西市の事例から―」というタイトルで、地方公立美術館における運営目的や新たな試みなどについてお話くださいました。

運営目的には、郷土の芸術文化の顕彰や、地域の活性化、生涯学習または未来を担う子供たちの教育といったものがあると説明し、地域との連携事業や対話型鑑賞、時代のニーズに即した鑑賞方法などを紹介してくださいました。

郷土ゆかり作家たちの展覧会

子供たちの教育の場として、「感性キーワード」とマッチする作品を選び、その理由を書いていくという、ゲーム感覚で楽しみながら語彙力を養う事例も紹介していただきました。

受講者たちも単語カードを引いて、何か作品を選んでみることになりました。

また、自分たちの郷土の作家・作品をあげ、どのようにアピールするかを考えてみました。

群馬県出身の画家には、湯浅一郎、福沢一郎、星野富弘、山口晃など、また彫刻家には、板谷波山と関わりのある雨宮治郎などがいます。


先生の質問に答えたり、郷土ゆかりの作家を紹介したりすると、板谷波山関連グッズなどをゲット。


教室のスクリーンに映し出されたQRコードなどから、美術館やプロジェクトをネット検索したり、席の近い人たちでおしゃべりしながら郷土のゆかり作家を探したり。
ユニークな授業が展開していきました。

新たな試みでは、公立美術館とは異なった視点での活動例として、指定管理者制度を導入した板谷波山記念館(筑西市)を紹介してくださいました。この記念館では、市民が積極的に運営を支える活動を行っているそうです。

美術館は、地方に限らず、近年の傾向である「結果でなく過程を重視する」教育の場として有効と語る大木先生。
これからも斬新なアイデアを次々と出して、後輩たちへの良い刺激となってください。

大木先生、ご講義をどうもありがとうございました。

しもだて美術館ホームページ https://www.city.chikusei.lg.jp/page/dir004549.html
板谷波山記念館ホームページ https://www.city.chikusei.lg.jp/data/hazan/top.html

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平成30年度「芸術の現場から」は、これで終了です。
様々な分野の方々から、貴重なお話をたくさん伺いました。
講師の先生方をはじめ、ご支援、ご協力くださった皆さま、どうもありがとうございました。

平成30年度「芸術の現場から」講師一覧、スケジュール
https://www.gpwu.ac.jp/dep/lit/art/2017.html

2019年2月1日金曜日

「芸術の現場から」(県民公開授業) 衣裳作家の山本恵先生による御講義

リレー講座の第13回(2019.1.22)は、衣裳作家の山本恵先生にお越しいただきました。


山本先生は、日本初のオペラとバレエの専用劇場である新国立劇場の設立当時より、スタッフとしてたびたび公演に参加をしたり、英国ロイヤルバレエ団、ボリショイバレエ団など海外カンパニーの来日公演のスタッフとして多数、参加をしたりしています。


また、世界的なダンサーや指揮者がかかわる日本のバレエ団などの衣裳制作も手がけていらっしゃいます。


今回のご講義にあたり、子供に貸し出しをしているバレエの衣裳、チュチュやネックレス、ティアラなど山本先生が製作されたものをお持ちいただきました。


ご講義の中では、すべての権限を握る演出家の意向のもと、どういった生地を使い表現していくか、またダンサーにとっての安全性をどう確保し、最大限のパフォーマンスを発揮できるように衣裳を製作するかなど、実際の工程写真を拝見しながらご説明いただきました。公演の直前に作り直すことや公演中に手直しすることなど、多数のエピソードもご披露いただきました。



学生にとっては、製作の工程を知ることにくわえ、きらびやかな衣裳やティアラを実際に触ったり、身につけたりすることができ、とてもテンションが上がっていたようです。


舞台を支える上で必要な職業にどのようなものがあるのか、本校の学生が実際、携わることができる仕事はどれなのかなど、具体例をあげながらご説明いただきました。
学生にとっては、これから将来を考える上で迷う時期でもあり「自身の心の声を聞くことがとても大切であること」「イメージ就活をせずにまずは体験すること」「誰かのためになること」などのお話は、心に響いたようです。

ご自身の経験をもとに大変貴重なお話をしていただき、ありがとうございました。

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平成30年度「芸術の現場から」
10月~来年1月 火曜16:20~17:50 群馬県立女子大学 新館1階第1講義室にて
スケジュールはこちらをご覧ください。
https://www.gpwu.ac.jp/dep/lit/art/2017.html



2019年1月23日水曜日

「芸術の現場から」(県民公開授業) 映画監督の冨樫森先生によるご講義

リレー講座の第12回(2019.1.15)は、映画監督の冨樫森先生にお越しいただきました。



冨樫森監督は1998年に相米慎二監督のオムニバス映画『ポッキー坂恋物語 かわいい人』の一本を監督された後、『おしん』など数々の映画を監督されている先生です。最近は舞台演出や、また俳優の育成のお仕事も精力的になさっていらっしゃいます。2017年に出版された『俳優の演技術』では、脚本の読み方、役の作り方を丁寧に説明されています。



今日の講義では、「演じること」をA「演技する身体を作ること」とB「台本の要求を伝えること」に分類された上で、内田吐夢監督の映画『飢餓海峡』の一つのシーンを題材にして、まずこの脚本の核心は何で、一つ一つの台詞の「言外の意味(サブテキスト)」をどのようにして見出すのかを、受講生に質問し、あるいは台本を演じて自分で探り出すというインタラクティブな方法で教えて下さいました。


登場人物を理解するためにその人物の「履歴書」を書いてみること、そのとき、その人がどんな風に育ち何がその人のトラウマになっているのかを考えることが大切だ、など、演技することについて、映画監督らしいご講義でした。

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平成30年度「芸術の現場から」
10月~来年1月 火曜16:20~17:50 群馬県立女子大学 新館1階第1講義室にて
スケジュールはこちらをご覧ください。
https://www.gpwu.ac.jp/dep/lit/art/2017.html

2019年1月13日日曜日

「芸術の現場から」(県民公開授業) オペラ歌手の日向由子先生によるご講義

リレー講座の第11回(2019.1.8)は、オペラ歌手の日向由子先生にお越しいただきました。

Al di là ~♪

日向先生は、藤原歌劇団団員、日本演奏連盟会員で、数多くのコンクールで入賞しています。現在は、クラシックからポップスまで幅広く活動をなさっています。

登場にあわせて最初に一曲。
1961年のサンレモ音楽祭の優勝曲『アル・ディ・ラ』を、メゾソプラノの美しい歌声で格調高く歌ってくださいました。

東京藝術大学声楽科を卒業後、イタリアに留学、パルマ国立音楽院を卒業して帰国。
その時、音楽活動とともにイタリア語教師としての新たな道も進むことになりました。

今回は、オペラについて、そしてイタリア人のジェスチャーについて教えていただきました。

オペラはマイクを使わず、生声で歌うので上演期間は短いそうです。たった数日の公演のために何カ月も準備をするという、その水面下の努力に皆心打たれました。

「帰る」のジェスチャー


イタリア語教材のDVDを見ながら、ジェスチャーについて学びます。
知らず知らずのうちに、一緒に手が動いていました。
非言語コミュニケーションのジェスチャーはなんとも雄弁でした。

話を聴きに行っただけのはずのイタリア文化会館で、突然、留学先が決まったり、
留学時には考えていなかったイタリア語の教師にもなったり、「人生何が起こるかわからない」。
けれども、それが新しい出会いとなっていく、その機会を大切にしたいと話してくださいました。


現在、4月の『アイーダ』公演に向けて準備をなさっている日向先生。
公演の成功をお祈りしております。

日向由子先生、ご講義をどうもありがとうございました。


日向由子先生ホームページ http://www.hinata-pulcino.com/

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平成30年度「芸術の現場から」
10月~来年1月 火曜16:20~17:50 群馬県立女子大学 新館1階第1講義室にて
スケジュールはこちらをご覧ください。
https://www.gpwu.ac.jp/dep/lit/art/2017.html

2018年12月24日月曜日

「芸術の現場から」(県民公開授業) ハラ ミュージアム アークの山川恵里菜先生による御講義

リレー講座の第10回(2018.12.18)は、群馬県渋川市の美術館「ハラ ミュージアム アーク」から山川恵里菜先生にお越しいただきました。


山川先生は、本学美学美術史学科及び大学院芸術学専攻の卒業生です。
現在、美術館でおもに広報を担当なさっています。

ジャン=ミシェル・オトニエルの作品《Kokoro》を前景に

ハラ ミュージアム アークは、伊香保グリーン牧場に隣接する私立美術館です。東京都品川区の現代美術を専門とする原美術館の別館です。群馬県立近代美術館と同様に、建築家の磯崎新氏が設計しました。

両美術館は、公益財団法人アルカンシエール美術財団を母体としています。原美術館は2020年12月末に閉館し、2021年からはハラ ミュージアム アークは「原美術館 ARC」と館名を改め、活動拠点を「原美術館ARC」に集約する予定です。

今回の授業では、両美術館の紹介や今後の動向、またハラミュージアムアークにおける美術館のスタッフたちのお仕事についてご講義をしていただきました。



美術館の仕事というと、すぐに思い浮かぶのは「学芸員」かもしれません。しかし、実際には様々な職種があります。

山川先生は、コンパクトな私立美術館ならではの、統率力を活かしたスタッフ連携による運営の内容を詳細に紹介してくださいました。
この美術館では、皆で一緒になってお客様をおもてなしするというコンセプトのもとで、ショップやカフェもすべて美術館スタッフが担当しています。



「ひとつの展覧会をめぐって、それぞれどんな人がどんな仕事をしているのか」、イラストを用いながらわかりやすく説明してくださいました。

ひとつの展覧会を企画・開催するたびに、館長、学芸員、総務・経理、広報、デザイン、受付、監視、警備、営繕、ミュージアムショップ、カフェの職員たちが協力しあいながら、それぞれの仕事をこなしていることがわかりました。

展覧会開催期間以外にも、皆さんの仕事は日々展開していきます。

広報のみならず、ショップや学芸のお仕事にも携わっている山川先生。私たちに広い視野で美術館や展覧会の運営について考えることを教えてくださいました。

山川恵里菜先生、ご講義をどうもありがとうございました。

・ハラ ミュージアム アーク ウェブページ:http://www.haramuseum.or.jp/jp/arc/
・原美術館 ウェブページ:http://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/

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平成30年度「芸術の現場から」
10月~来年1月 火曜16:20~17:50 群馬県立女子大学 新館1階第1講義室にて
スケジュールはこちらをご覧ください。
https://www.gpwu.ac.jp/dep/lit/art/2017.html

2018年12月17日月曜日

「西洋美術史実地研修2」(第4回)に行ってきました!

ギュッとくる寒さ、まぶしい青空。
午前10時の上野公園では、どこかへと急ぎ向かう人々が往来していました。

第4回の実地研修は、最初に「ムンク展――共鳴する魂の叫び」(東京都美術館)を
見学しに行きました。

エドヴァルド・ムンク(1863-1844年)は、《叫び》の絵でよく知られたノルウェー出身の画家。《叫び》にはいくつかのヴァージョンがありますが、このたびオスロ市立ムンク美術館蔵の作品がやって来ました。


入口前には待ち時間40分の看板があり、覚悟を決めてエスカレーターを降りました。

事前学習の発表風景

長蛇の列でも笑顔

並びながらポーズをとってくれました。

会場内は大混雑でしたが、ムンクの作品と対話することができたでしょうか。


この後は、NHKと東京藝術大学による展覧会「ART of 8K ~テクネ 映像の教室 in 東京藝術大学~」(東京藝術大学大学美術館)を見学しました。

12月1日からNHKで始まった8K放送。
超高精細映像×アートの挑戦を体感できる絶好の機会でした。

8K撮影を体験

今ある現実を超えた色鮮やかな映像には、やはり素直に驚きと感動をおぼえました。
考えてみれば、美術の歴史はつねに技術とともにありました。
これからの若い人たちは、どのような世界をひらいていくのでしょうか。

NHK Eテレ番組「テクネ 映像の教室」制作統括の倉森京子さんには、
11月に本学授業「芸術の現場から」にお越しいただき、美術番組の制作について
ご講義をしていただきました。
(「芸術の現場から」ブログ記事へ
      https://kenjo-bigaku.blogspot.com/2018/11/blog-post_16.html


昼食後は、「ルーベンス展――バロックの誕生」(国立西洋美術館)を
見学しました。

ペーテル・パウル・ルーベンス(1577-1640年)は、フランドルのアントウェルペン
(英語名アントワープ)を拠点に広くヨーロッパで活動した、バロック美術を代表する画家です。


事前学習の発表風景

今回の「ルーベンス展」は、画家とイタリアとのかかわりに焦点をあてています。
そのため、版画素描展示室での企画展「ローマの景観――そのイメージとメディアの
変遷」も意識的に見学しました。
事前学習では、ルーベンスのほか、古代ローマ遺跡を壮大に描出した
18世紀イタリアの版画家ピラネージ、また国立西洋美術館について学びました。

「ルーベンス展」を担当するTBSテレビ事業局の佐藤麻理子さんには、
先日やはり「芸術の現場から」の授業でご講義をしていただきました。
佐藤さんは、本学美学美術史学科の卒業生です。
授業では、展覧会の企画から開催までについてお話をうかがいました。
(「芸術の現場から」ブログ記事へ
  https://kenjo-bigaku.blogspot.com/2018/12/tbs.html


ロダン《考える人》の前で

今年度の「西洋美術史実地研修2」は、これで終わりです。
明るくて優しい学生たちとの楽しい授業でした。

それでは、また来年。

どうぞ良いお年をお迎えください。

「芸術の現場から」(県民公開授業)TBS展覧会担当の佐藤麻理子先生による御講義

リレー講座の第9回(2018.12.11)は、TBSテレビ事業局事業部から展覧会担当の
佐藤麻理子先生にお越しいただきました。


佐藤先生は、本学文学部美学美術史学科の卒業生です。これまでに数多くの展覧会の企画・運営に携わってこられました。昨年度に続き、ご講義いただきました。


今回のご講義は「メディアと文化事業――展覧会の現場より」というタイトルで、
おもに国立西洋美術館との共催事業に焦点を当ててお話してくださいました。

TBSと国立西洋美術館との共催展

TBSテレビは「カポディモンテ美術館展」(2010年)以降、毎年1~2回のペースで
国立西洋美術館と共催の展覧会を続けています。

このような展覧会は新聞社も共催者となり、学術面は美術館の学芸課が、
そして実務面はメディアが担当して事業が進められます。
とはいえ、美術館とメディアそれぞれの視点があるためにバランスをとりながら、
同じベクトルを向くように日々作業をしているそうです。

「ルーベンス展」広報資料

現在、国立西洋美術館では共催事業の「ルーベンス展――バロックの誕生」が
開催中です。

ペーテル・パウル・ルーベンス(1577-1640年)は、フランドルのアントウェルペン
(ベルギーの都市、英語名アントワープ)に大工房をかまえ、広くヨーロッパで活動した画家です。『フランダースの犬』のアニメでご存知の方も多いでしょう。
主人公の少年ネロが憧れていたあの画家です。

「ルーベンス展」チラシ

佐藤先生は、2015年の企画当初から現在進行形の広報活動に至るまで、
現場ではどのような状況であるのか、企画成立前の段階から順を追って話してくださいました。

ひとつの展覧会が開催されるまでには、国内外における様々な人々の協力があり、
また年月をかけた用意周到な準備のみならず、臨機応変な対応も必要とされることを知りました。

圧倒的な空間を演出する会場と、じっくり読む図録とでは構成にも異なる工夫をこらし、開催中も何百という媒体を介したメディアによる広報を続けていきます。


最後に「展覧会は誰のもの?」と原点に帰り、メディアとして皆さんのために
良い展覧会を届けることが大切だと語られました。

佐藤先生の展覧会のお仕事は、国立西洋美術館との共催事業のみではありません。
たとえば、昨年度は同時進行で新国立美術館と「ジャコメッティ展」を共催しています。図録は今年の「第59回全国カタログ展」において、「国立印刷局理事長賞」と
図録部門の「部門賞 銀賞」を受賞しました。

来年秋には、国立西洋美術館との共催で「ハプスブルク展」が開催予定です。
一年後が楽しみですね。

佐藤麻理子先生、ご講義をどうもありがとうございました。

・「ルーベンス展――バロックの誕生」特設サイト:  
  https://www.tbs.co.jp/rubens2018/

・「芸術の現場から」2017年度 佐藤先生ご講義ブログ:
  http://kenjo-bigaku.blogspot.com/2017/12/blog-post_6.html

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平成30年度「芸術の現場から」
10月~来年1月 火曜16:20~17:50 群馬県立女子大学 新館1階第1講義室にて
スケジュールはこちらをご覧ください。
https://www.gpwu.ac.jp/dep/lit/art/2017.html