2025年11月22日土曜日

2025年度「西洋美術史実地研修2」第3回を実施しました

 第3回(11月15日)は、上野の国立西洋美術館を見学しました。

午前中は企画展「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」を鑑賞しました。印象派の作品というと、モネの《睡蓮》のように屋外のモティーフを思い浮かべがちですが、本展覧会では人物や静物など屋内のモティーフを描いた作品が多く集まっていました。

午後は常設展のほか、「フルーニング美術館・国立西洋美術館所蔵 フランドル聖人伝板絵―100年越しの“再会”」と「物語る黒線たち―デューラー「三大書物」の木版画」もあわせて鑑賞しました。





2025年11月1日土曜日

2025年度「西洋美術史実地研修2」第2回を実施しました

 第2回(10月26日)は、近隣の群馬県立近代美術館を見学しました。

同美術館には、群馬ゆかりの美術や日本近代美術のほか、ルノワール、モネ、ピカソなどの海外近代美術、また現代美術のコレクション作品があります。

見学にあたり、教育普及係の黒田隆之氏が美術館や開催中の展覧会についてレクチャーをしてくださいました。

その後、企画展「響きあう絵画 宮城県美術館コレクション カンディンスキー、高橋由一から具体まで」と「水野暁 視覚の層 | 絵画の層」、また「コレクション展示:日本と西洋の近代美術Ⅲ」を鑑賞しました。

また、宮城県美術館学芸部長の加野恵子氏による講演「宮城県美術館コレクションで編む近代美術史―その魅力」を聴講し、2つの美術館の特徴や日本近代美術と西洋美術との関わりなどについてお話をうかがいました。

水野暁氏には、この7月に本学授業「芸術の現場から」のゲスト講師としてお越しいただき、ご自身の作品や制作についてご講義いただきました。

今回の研修では、黒田氏をはじめ、美術館のスタッフの方々に大変お世話になりました。
どうもありがとうございました。


2025年10月13日月曜日

2025年度「西洋美術史実地研修」が始まりました

「西洋美術史実地研修」は、美学美術史学科の専門教育科目であるとともに、学芸員課程科目の「博物館実習I」としても開講されています。本授業は、西洋美術の作品を実見して教室での学びを深め、美術館・博物館の展示や運営の実態を学ぶことを目的としています。

第1回(10月11日)の午前中は、SOMPO美術館(新宿)の「モーリス・ユトリロ展」を見学しました。


ユトリロ(1883-1955年)は、パリの街並みを詩情豊かに描いた風景画家です。展覧会は、彼の作品が制作時期ごとに章立てられた構成になっていたほか、会場には日本におけるユトリロの受容についてのコーナーもありました。

最後に美術館所蔵のフィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890年)《ひまわり》を鑑賞して上野に向かいました。

午後は、東京都美術館の「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」を見学しました。

展覧会では、兄であるゴッホを支え、彼の死から半年後に死去した弟テオの遺族たち、テオの妻ヨーと彼らの息子フィンセントによる、ゴッホ作品の周知及び保存活動に焦点が当てられていました。会場では、1973年に開館したファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)のコレクションであるゴッホやその時代の画家たちの作品などが展示されていました。


2025年8月5日火曜日

7月28日「芸術の現場から」上田市立美術館館長 山嵜敦子先生

 2025年7月28日「芸術の現場から」のリレー講座最終回は、上田市立美術館館長の山嵜敦子先生にお越しいただきました。

山嵜先生は本学国文学科の卒業生です。
上田市役所に入庁し、国保年金課、文化財課、観光課などを経て、同市の池波正太郎真田太平記館、上田市立博物館、上田市立美術館の学芸員を務め、2021年に同美術館の館長に就任されました。

今回のご講義は「サントミューゼって、どんなところ?」というタイトルのもと、ご自身の経歴とともに3館の特色、学芸員の仕事についてお話をしてくださいました。

池波正太郎真田太平記館

池波正太郎真田太平記館は、直木賞作家・池波正太郎(1923-1990年)が戦国武将・真田昌幸とその息子たち信之、信繁(幸村)の活躍をテーマに執筆した時代小説『真田太平記』の関連資料を中心に展示している文学館です。昌幸が築城した上田城の城下町であった上田にあります。

上田市立博物館

上田城CG復元画像

上田市立博物館は、上田城跡にあり、歴代藩主や上田地方の資料を収蔵・展示しています。
上田城の全体像はVRの再現動画で見ることができます。建物自体は現存していないため、動画制作にあたり、古地図や絵図などの資料を参照しながら構築していったそうです。一瞬のあいだ登場する画像も、学芸員たちによる綿密な調査にもとづいています。

「真田三代の活躍した時代」展ポスター(部分)

また、2016年にNHK大河ドラマ『真田丸』関連の展覧会「真田三代の活躍した時代」を開催した際には、展示した肖像画について、大学時代に日本の服飾史を学んでいたことが作品の年代比定に役立ったそうです。

サントミューゼ(概要)

サントミューゼ(平面図)

山嵜先生が館長を務める上田市立美術館は、上田市交流文化芸術センター(劇場)と芝生広場と一体となった施設「サントミューゼ」を構成しています。「サント」には、SUN(太陽)と蚕都上田の2つの意味、また「ミューゼ」には美やミューズ(芸術の女神)、美術館といった意味が込められているそうです。
この施設は、文化芸術をとおして、上田市民のシビックプライド(都市に対する市民の誇り・愛着)や持続可能な自治体を形成していく交流拠点としての役割を担っているとのことです。

上田市立美術館展覧会事業(企画展)

上田市立美術館の企画展は、「顕彰作家に関する展覧会」「美術館を身近にするための展覧会」「質の高い美術展」「『育成』をキーワードとする美術展」「地域に根ざす芸術文化の紹介」の5つの目的別に開催されているそうです。

ミュシャ展、作品展示

山嵜先生が担当なさった企画展「アルフォンス・ミュシャ 煌めきの女神たち」をおもな例として挙げ、起案や予算、会場の詳細な展示計画、設営、開催中の管理やイベント開催、閉会後の報告書作成、決算など、展覧会の進め方に関わる学芸員の仕事を紹介してくださいました。

サントミューゼの様々な活動

サントミューゼでは、高崎市を本拠地とする群馬交響楽団の定期演奏会が年2回開催されているそうです。

山嵜先生は、上田市役所に入庁した当初から学芸員を目指していたわけではなかったそうです。大学時代に取得していた学芸員資格があったことで、やがて学芸員職に就くようになりました。しかし、資格のみではなく、現場での実践経験が大切であると力説なさいました。
また、「どの世代にも美術や芸術は大切であると思う。それに気づくことができたのは、市役所内の配属で健康保険関係の仕事に就いていた時に高齢者たちと直接関わる経験を得られたから。無駄なことは何一つありません」と若い学生たちに語りかけました。

これからの大学生活や就職活動、仕事のあり方について、先輩からの温かいメッセージが学生たちに伝わったのではないでしょうか。

山嵜先生、素敵なご講義をありがとうございました。

2025年7月28日月曜日

7月21日「芸術の現場から」アーティスト長谷川仁先生

 2025721日、アーティスト・長谷川仁さんにお越しいただきました。

長谷川さんは、北海道から瀬戸内、海外まで幅広く活動されている現代美術家であり、

地域や子どもたちとの共同制作を数多く手がけています。

今回の講義では、ご自身の生い立ちから近年の作品まで、

多彩なエピソードを交えてお話しいただきました。

 

 幼少期と学びの原点

長谷川さんは、母がファッションデザイナー、父が建築家という家庭で育ち、

幼い頃から自宅の壁に自由に落書きを楽しめる環境があったそうです。

大学で社会学を学んだ後、タイでバックパッカーとして旅をした経験が大きな

転機となりました。旅先で出会った家庭の温かいもてなしや、質素な椅子に

心地よさを感じ、「自分にとっての居心地の良さとは何か」を考えるきっかけに

なったといいます。



帰国後は、昼間にプロダクトデザインのアルバイトをしながら、

夜間は桑沢デザイン研究所でプロダクトを学習。

倉俣史朗の作品に触れて受けた衝撃も、この時期に大きな刺激となりました。

さらにその後、モノ派のアーティスト・関根伸夫さんが主宰する事務所に7年間在籍し、

現場を通してアートの実践を学んでいきました。


 

「場所」と人をつなぐ作品づくり

長谷川さんの作品は「場所性」を大切にしています。現地に足を運び、その土地ならではの「色気」を見出し、地域に寄り添う作品を提案していく姿勢が一貫しています。

例として、以下のプロジェクトが紹介されました。

・《The cradle of stardust》安中榛名駅のベンチ:星座を描き、夜空を見上げる体験を提供するデザイン。



・《coinsJRタワーの募金箱:絶滅した動物には募金できない仕組みで、社会への問いかけを仕込んだ作品。



・《リスノタネ》小学校のワークショップ:子どもたちと泥人形をつくり、自然と遊びの関係を形にした試み。



・《エゾパズル》新千歳空港内に設置した北海道らしさを表現した立体アート。



 

子どもと共に創るアート

長谷川さんは、子どもとの共同制作やワークショップを積極的に展開してきました。

新聞紙を染めて巨大なインスタレーションを作ったり、廃校になった小学校で

「タイムマシン」をテーマに作品を制作したりするなど、

遊び心あふれる取り組みが印象的でした。



「子どもが自然を好きになるきっかけをつくりたい」

その言葉通り、作品には教育的なまなざしと社会的な意義が込められていました。

 

 

芸術祭と挑戦

長谷川さんは、大地の芸術祭や瀬戸内国際芸術祭をはじめ、

各地の芸術祭にも多数参加されています。瀬戸内での《時間屋》では

46億年前の塩を10秒すくう」という行為を作品化し、

観客に地球の時間を感じさせました。



 

また、飯舘村での瓢箪を育て使った作品《ひょうたんボトル》や、



今年度制作したアップサイクルアート展での作品《指先みたいなもの》



など、自然・人間・社会をつなぐテーマが一貫していました。

 

 

メッセージ

最後に語られたのは「絶対に諦めない」「やり切る」という強い言葉。

そして、「芸術祭はアドベンチャー」という表現が印象的でした。

作品づくりはいつも“思いつき”から始まるが、そこに社会性と地域性を組み合わせ、

最後まで形にすることがアーティストの役割であると力強く語られました。

 

 

まとめ

今回の講義を通じて、学生たちは「アートは単なる自己表現ではなく、

人や場所をつなぐ行為である」ことを実感しました。

地域に根ざしたアートの力、そして挑戦し続ける姿勢に、

多くの刺激を受けた時間となりました。

長谷川様、ありがとうございました。

2025年7月20日日曜日

7月14日「芸術の現場から」 メディアプロデューサー・アートディレクター 中⾕⽇出先⽣

 2025年7⽉14⽇、群⾺県⽴⼥⼦⼤学にて、メディアプロデューサー・アートディレクターとして活躍する中⾕⽇出(なかや・ひで)先⽣による講義が⾏われました。

講義の冒頭、先⽣は「本⽇出会った学⽣のみなさまと、これからつながっていきましょう!」と語りかけ、90分にわたって、⽣成AI時代における⼈間の学び・創造・つながりについて多⾓的に展開されました。キーワードは「アンラーンnlearn)=既存の考えを⼿放す」。情報社会、デザイン教育、アートの役割などを縦横無尽に語る内容でした。


■ 1. はじめに ― アンラーン(unlearn)しよう
講義の冒頭、中⾕先⽣は「180度、意識を変えましょう」と⼒強く語りかけました。現代社会では、私たちはつい既存の知識や常識に縛られがちです。しかし、AIやVRと共⽣するこれからの時代においては、「アンラーン(unlearn)」=学び直し/⼿放すことが不可⽋であると先⽣は説きました。

■ 2. ⽇本⽂化と“つながり”の精神
先⽣は、⾃ら京都で営む茶室の活動を紹介しながら、「⼀期⼀会」や「私淑(ししゅく)」といった⽇本⽂化の精神について語られました。千利休や本阿弥光悦を敬愛する⼀⽅で、レオナルド・ダ・ヴィンチにも「遠く離れた先輩」として親しみを感じているとのこと。時空を超えた“つながり”こそが、創造⼒の源であると強調されました。

■3. 情報のデザインと⽣成AI
講義では、⽣成系AI(Generative AI)の可能性と限界についても語られました。
・⽣成AIは「習いにくい」=教育システムがまだ追いついていない
・AIは「イメージを実現するアシスタント」
・これからは「情報デザイン」の⼒が重要:図解、要約、⼩説のキャラクター分析などのスキルが必要
特に紹介されたのが、「アップとルーズで伝える」という情報伝達の⼿法です。
・「ルーズ」:引いた視点で、共感や雰囲気を伝える
・「アップ」:寄った視点で、焦点や本質を的確に伝える
このアプローチは、図解による企画書づくりやSNSでの発信にも活かされているとのことでした。
また、中⾕先⽣は「Moonshot=⽉に向かって創る」という⾔葉にも触れ、未来を⾒据えた挑戦の重要性を語られました。これは⽇本政府が進める「ムーンショット型研究開発制度」にも通じるビジョンであり、AI・ロボティクス・VRなどの先端技術を活⽤して2050年の社会変⾰を⽬指す国家プロジェクトでもあります。
「こうした未来志向の挑戦を、私たち⼀⼈ひとりが“⾃分の軸⾜”を持ちながら進めることが⼤切」と語り、失敗を恐れずチャレンジする姿勢の必要性を学⽣たちに⼒強く伝えられました。

■ 4.Eテレ、VR、デジタル教育への関与
中⾕先⽣は、Eテレの「デザインあ」「2355/0655」「いないいないばあっ!」「天才てれびくん」など、数多くの⼦ども向け番組の制作に携わってこられました。また、⾼齢者運転標識や障害のある⽅のマークのデザインも⼿がけられています。これらの番組やマークの制作を通して、「⼈に共感される情報設計」の重要性を深く実感されたとのことです。
さらに、「エンターテイメント⼤学」の学⻑として、オンライン学習やSTEAM教育にも取り組まれており、VR空間を活⽤した“学びの劇場化”という新たな教育のかたちについても語られました。

■5. 図解と思考のOS ― 「図で考える」ことの意味
中⾕先⽣は、「英語」「プログラミング」「MBA」などのスキルを⽀える⼟台として、『図で考える⼒』こそが“思考のOS”であると強調されました。図解は、情報を整理し、構造化し、他者と共有するための根本的なツールであり、あらゆる分野で応⽤可能な“学びの基盤”となります。
講義では、図解が情報理解を助ける理由として、次の4点が⽰されました。
・視覚で直感的に理解できる
・重要な点がすぐに⾒える(整理→整頓→図化の3ステップ)
・情報の関係性が⾒やすくなる
・記憶に残りやすい
また、情報を“美しく⾒せる⼒”として、デビッド・マキャンドレスのデータビジュアライゼーションも紹介され、「図解は最強のクリエイティブツール」であると述べられました。


■ 6. 社会の中のデザイナーを⽬指して
「社会の中で機能するデザイナーであれ」という⾔葉とともに、中⾕先⽣は、「情報化社会を読み解く⼒=⽂脈(コンテクスト)理解」がますます重要になると強調しました。
・医療・介護分野でのロボット開発
・サイバーセキュリティ政策への提⾔
・東京FMでのラジオ活動
など、ジャンルを横断した先⽣⾃⾝の多彩な活動を紹介され、「領域を超えたデザ
イン」の実践例として⽰されました。

■ 7.視点の拡張 ―《Powers of Ten》と「アップとルーズ」
講義の中盤では、チャールズ&レイ・イームズによる映像作品《Powers of Ten(10の冪乗)》が紹介されました。ピクニック中の⼈物から宇宙空間へ、そしてミクロの細胞レベルへと、視点を拡⼤・縮⼩していくこの映像は、「視点を変えることの⼤切さ」を視覚的に伝える名作です。
この作品をふまえ、中⾕先⽣は再び「アップとルーズ」という情報の捉え⽅に触れ
ました。
・ルーズ:全体像や背景をぼんやりと捉え、共感を⽣む
・アップ:的確に焦点を当て、意図を明確に伝える
このように視点を⾃由に⾏き来する⼒こそが、⽣成AIやVRが進化する今の時代における“⽂脈を読む⼒”に直結する、と先⽣は述べました。
「⽂章を書くときも、まず“ルーズ”で共感を引き出し、次に“アップ”で本質を伝える。それが⼈を動かす表現につながる」とのアドバイスも、学⽣たちの⼼に残ったようです。




■8. 最後に ― VRとAI時代を⽣きる⼒
講義の最後に中⾕先⽣は、VR(仮想現実)やAI(⼈⼯知能)の進化が、これからの学びや社会にどう影響するかについて語られました。1990年代のVRの誕⽣とともに紹介されたのが、「AIPキューブ」という考え⽅です。これは、VR体験を構成する3つの重要な要素を⽴体的にとらえるモデルです:
・A:⾃律性(Autonomy)
・I:相互作⽤(Interaction)
・P:存在感(Presence)
このモデルは、⼈と空間、体験のデザインに深く関わる概念であり、教育や芸術の分野でも応⽤されつつあります。続いて中⾕先⽣は、⽣成AI時代を⽣き抜くために必要な「7つのチカラ」を提⽰されました。これはAIを“使われる”のではなく、“使いこなす”ための基本姿勢とスキルです。
・AI活⽤マインド:AIと前向きにつきあい、活⽤する意識
・AIキホン理解⼒:AIの基礎的な知識をおさえる⼒
・AI仕組み理解⼒:AIの動作原理や限界を理解する⼒
・AI事例収集⼒:最新の活⽤事例を知る⼒
・AI企画⼒:AIを使って新しい企画を⽴てる⼒
・AIプロンプト⼒:AIを動かす具体的な指⽰を出す⼒
・AIマネジメント⼒:AIをチームや社会の中で活かす⼒
「テクノロジーが進化する今こそ、⼈間らしい感性と創造性を⼿放さずに、AIと協
働していくことが未来を切り拓く鍵になる」と、中⾕先⽣は学⽣たちに⼒強く語り
かけ、講義を締めくくられました。

■まとめ:アートと社会、情報と教育の交差点で
中⾕先⽣の講義は、⽣成AI時代を⽣きる私たちが「何を⼿放し、何を創るか」を深
く問い直す時間となりました。アートの視点から社会を⾒ることで、社会そのもの
がアートとなり得る。そして、「何をもってアートとするのか」という問いこそ
が、未来の創造に向けた第⼀歩であることを、改めて考えさせられる90分でした。


2025年7月11日金曜日

7月7日 「芸術の現場から」画家 水野暁先生

 令和7年7月7日というラッキーセブンが3つ揃ったこの日、群馬在住の画家、水野暁先生をお招きして、制作の現場や裏側、作品に対峙するスタンスをお話しいただきました。

当日は地元の先生のファンの方も訪れ、教室は先生のお話を楽しみにしていた様子です。


今回のご講義の大きなテーマを「見るというのはどういうことか」とし、
これまで先生が変化しつづける自然や動きを伴う人物を描く際に、
どのようなことを意識し、時間をかけて作品を作っていったのかをお話してくださいました。

これまでの展覧会で発表してきた作品のお話

先生が屋外で作品を描かれる様子をその過程も含めてお話してくれました。多くの作品は2~3年の歳月を経て完成しています。そこには移ろいゆく四季や表情を変える光など、
日々絵画に向き合って、変化していくモチーフを描くため、画面上に複数の痕跡が残っていることを教えてくれました。暑い中も寒い中も、実際に目で見て描くということを大切にしている先生ならではのモチーフのとらえ方かと思います。



4年間かけて浅間山を描いたお話では、画面上に雪、紅葉などどが描かれ、どの季節か一見わからないのですが、四季をまたいで山の見える場所に通い、その中で描いていったためこのような作品になっていたと聴講する側も合点がいきました。
そこではキャンバスを置かせてもらう場所の交渉から始まり、プレゼンテーションを経て、了承をもらい、通う中で、「この人は本気なんだ」と思ってもらうこととなったとお話されたときは、絵に向き合う熱い気持ちがひしひしと伝わってきました。そこでは、ご自身の絵も周りの人の支えがあってこそという感謝の気持ちも大切にされていました。

他にも大学時代のお話や、スペインへの留学の際のおはなし、そこで出会った友人や先生のおはなしもしてくださいました。どのエピソードもとても興味深いものでした。


絵の具がたくさん混じり合ったパレットも紹介してくれました

そして、「Mother」という先生のお母様を描いた作品について、
「母を描いたことがなかったので、描いてみようと思った」ということがきっかけとのことですが、ご病気のお母様を見続け、描くことで人って生きている、動いているということを改めて再確認されたようです。大変愛情深い気持ちが伝わる作品でした。

さらに中之条町と吾妻町の二本の杉の木の作品にも言及し、作品を見ただけではわからない、作者の言葉、意図などをくみ取ることが出来ました。

いずれのお話の中にも、「描く」ということは、「見る」ということは、
水野先生自身もそのことを模索しながら今もなお制作を続けてらっしゃるということがわかり、学生たちも県民の方も作家の言葉を聞くことで、また作品を異なった角度から見つめてみることに繋がったのではないでしょうか。


最後は質問タイム。実技を学ぶ学生からは、いろいろな質問が登場しました。
いずれの質問にたいしても丁寧に真摯に回答してくださいました。


水野先生、大変貴重なご講義、ありがとうございました!

今年の秋は以下の展覧会が同じ日にスタートします。ぜひ足をお運び下さい。

群馬県立近代美術館:特別展示「水野 暁 視覚の層|絵画の層(仮)」
           2025年9月13日(土)から12月16日(火)

中之条ビエンナーレ   2025年9月13日(土)から10月13日(月・祝)