2022年7月20日水曜日

オープンキャンパス開催

7月16日(土)・17(日) 美学美術史学科の学科説明会、個別面談が開催されました。

美学美術史学科の説明/模擬授業
時間 9:30~11:00
今年は、事前予約により全国から多くの高校生が参加。

高橋先生による学科全体の説明からスタート。


奥西先生から入試の説明がありました。


毎回、恒例になっている在校生2名から、大学生活の紹介がありました。
授業、ゼミの活動、部活などなど。


日本美術を担当している塩澤先生の模擬授業 「科学」として美術作品を「学ぶ」


最後に、参加されている高校生からの質問を受け、説明会終了。

この学科説明会の他に、事前予約により個別面談を2日間にわたり開催。


その他に、実技棟において、実技ゼミ生の展覧会「天夏無双」などを鑑賞することができました。
この展覧会は、実技ゼミのwebサイトでも見ることができます。
https://maiko46.wixsite.com/mysite-1

参加してくれた皆さん、ありがとうございました。

2022年7月17日日曜日

7月11日「芸術の現場から」 彫刻家 黒川弘毅先生

 2022年7月11日の授業では、彫刻家の黒川弘毅先生(武蔵野美術大学教授)にお越しいただきました。

黒川先生は、ブロンズ鋳造技術の研究や、屋外彫刻の保存の専門家でもあります。群馬県では、群馬県立近代美術館の建物前に立つブールデル《巨きな馬》の定期メンテナンスや、館林市にある「彫刻の小径」作品群の市民参加型による保守活動にたずさわっていらっしゃいます。

今回のご講義では、おもに屋外彫刻の保守活動と触覚鑑賞についてお話してくださいました。

まず、レオナルド・ダ・ヴィンチ以来のパラゴーネ(絵画と彫刻との優劣比較論争)の歴史に言及しつつ、多視点性をもつ彫刻の鑑賞は必然的に能動的になると語ります。なぜなら、彫刻の場合、作品の周りを回りながら見るため、身体の運動が伴うからです。
また、美術作品の鑑賞は「楽しむこと」であると、鑑賞の本質に迫ります。

「洗剤とブラシやスポンジを使う」

次に、実例を紹介しつつ、屋外彫刻の保守活動と触覚鑑賞との関係や、彫刻メンテナンスの意義へと話題が展開していきます。

彫刻の保守作業では、作品に多方向から水をかけ、洗剤を用いてブラシやスポンジで洗浄し、ブロンズ作品にはワックスを塗布して光沢を調整しながら仕上げます。
黒川先生は、それらすべての行為が作品を能動的かつ親密に鑑賞する機会となり、触覚と視覚によってある感情が鑑賞者の意識の内部に生まれる、それが「触覚鑑賞」であると説明します。
屋外彫刻の保守は、子どもや大人が市民活動として行うことができるため、美術作品を保存する共同体的意識も形成されるそうです。

黒川先生のご作品紹介

最後に、黒川先生の作品を見せていただきました。

スクリーンに次々と投影されていくブロンズ彫刻「シリウス」「ヘカテ」「ベンヌ・バード」「ムーン・フィッシュ」「スパルトイ」「ゴーレム」「エロース」シリーズの作品群。ブロンズ制作において一般的な原型は用いられず、作品の創出は、ブロンズの自重によって、あるいは砂の穴に直接ブロンズを流し込むことによって生成される形態との邂逅です。作品には、原初的なエネルギーの放出が見られます。

学生からの質問風景

今回のご講義を通して、学生たちは、彫刻を触るという発想に新鮮さを覚えることから始まり、彫刻メンテナンスの意義と「触覚鑑賞」という新たな鑑賞法を学んだようです。また、黒川先生の型にとらわれないブロンズ彫刻の魅力を教えていただきました。

昨年度、本学では芸術学専攻の大学院生を中心に屋外彫刻2点の保守作業を行いました。円形広場の噴水である半田富久《あづまうた》1982年と、「春の庭」の日時計である住谷正巳《鳩(日時計)》1987年です。(本学ウェブページ News & Topics https://www.gpwu.ac.jp/info/2021/11/post-330.html

その際に、群馬県立近代美術館学芸員の方を通じて、黒川先生にご指導いただきました。今回のご講義でその時の保守作業がまさに触覚鑑賞であったことをはっきりと認識することができました。

黒川先生、ご講義をありがとうございました。

2022年7月5日火曜日

R4「西洋美術史実地研修1」第3回研修

 第3回目の研修では東京のアーティゾン美術館を訪れました。

 
 アーティゾン美術館は東京駅そばに2020年1月にオープンした美術館。とはいえ、その前身であるブリヂストン美術館は、1952年開館。コレクションは西洋・日本近代に加え、古代ギリシアの壺絵なども含めた豊富なコレクションで知られています。アーティゾン美術館としての開館後は現代美術の企画展も活発に行っています。
 訪問した日も三つの展覧会が開催されていましたが、今回の研修では西洋・日本の近代美術を取り上げた「Transformation 越境から生まれるアート」と「コレクション展」を鑑賞しました。


「Transformation」展では「越境」をキーワードにして、印象派の巨匠ルノワールによるルーベンスの《パリスの審判》の模写で始まる最初のセクションでは、ヨーロッパ各地の美術館を訪れて鑑賞した名画からどのような影響を受けたのかが検証されていました。

 

 このセクションでは、ルノワールが各地の美術館で見た名画とそれに対するルノワール自身の言葉が壁に映し出されており、同じセクションにあるルノワールの作品と対比しながら見ることで、「越境」がルノワールに何をもたらしたのかを、見ることができるようになっていました。

リニューアルした新しい美術館ならではの展示の工夫といえるでしょう。

 
愛らしい《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》は注目の的。
皆、メモをとりながら熱心に鑑賞。

次のセクションでは藤島武治や藤田嗣二などヨーロッパへ渡航した日本の洋画家たちが取り上げられていました。
藤島武治の素描帳には、西洋の彫刻の素描やピュヴィス・ド・シャヴァンヌの壁画の写しなどが。

 小杉未醒(放庵、放菴)《山幸彦》にもピュヴィス・ド・シャヴァンヌの影響がうかがえます。

西洋と日本の近代画家たちの「越境」に次いで後半セクションでは、20世紀初頭から第二次世界大戦後の美術における作品の移動、人の移動、美術の国際化といった「越境」と「変化」が、スイス出身の抽象画家パウル・クレーとパリとアメリカで活動した中国人画家ザオ・ウーキーの作品によって語られていました。
ロベール・ドローネーからパウル・クレーへの影響、
 そしてクレーからザオ・ウーキーへ


企画展の鑑賞を追えて、続いて「石橋財団コレクション選」展へ。

こちらは19、20世紀近代美術中心に美術史の流れを追うような展示構成になっており、これまで西洋美術の授業で学んだことの良いおさらいにもなったのではないでしょうか。
特集コーナーでは「ピカソとミロの版画」が展示されており、教育普及企画でもあるので、様々な版画の技法が解説されており、その道具も展示されていたのも勉強になりましたね。

一つの美術館だけでの研修でしたが、アーティゾン美術館の豊富なコレクションのおかげで多種多様な作品を見ることができました。









5月30日「芸術の現場から」 日本舞踊家 花柳榮輔先生

530日の「芸術の現場から」は、日本舞踊家の花柳榮輔さんにお越しいただきました。東京と京都を拠点に、古典と創作の両方にまたがって精力的に活動しておられ、また男性の日本舞踊家からなる集団「弧の会」メンバーとしてもご活躍です。

日本舞踊のルーツは歌舞伎にあり、まず榮輔先生は歌舞伎の歴史をわかりやすくご説明くださいました。1603年頃に京都に出雲阿国が登場して独特の踊りで注目され、これを受けて遊女歌舞伎が流行すると、風紀を乱すとして幕府に禁じられ、次いで若い男性による若衆歌舞伎が登場すると、これも同様に禁じられます。そこで成人男性のみによる歌舞伎の形が考案され、それが今日まで連綿と受け継がれてきたのです。その過程で、歌舞伎の中の舞踊を役者でない市井の人々が習い、楽しむようになり、今日でいう「日本舞踊」という文化が発達してきたのです。

ところでこうした事情を背景に、歌舞伎では男性が女性を演じる「女形」という演技の様式が編み出されました。榮輔先生は、男性と女性をそれぞれ演じるための基本の姿勢を実演してくださり、受講生も実際に少し体験し、味わってみました。さらに少女から若い女性、老女までを巧みに演じ分ける技法を、映像を通して学びました。男性が演じるために誇張するからこそ醸し出される女性らしさ、という不思議な現象を、先生の解説とともに新鮮に見つめることができました。

また榮輔先生の所属する「弧の会」が2000年に発表した創作舞踊『御柱祭(おんばしら)』も映像でご紹介頂きました。この作品は長野の御柱祭を、群舞と照明、音楽で表現したもので、日本舞踊の創作としては珍しく再演を重ね、息の長い作品になっています。「日本舞踊」のイメージを大きく覆す迫力ある踊りに受講生は見入っていました。

5月16日「芸術の現場から」 社交ダンス・インストラクター、ダンサー 村野みり先生

5月16日の「芸術の現場から」は、社交ダンス・インストラクター、ダンサーの村野みりさんにお越しいただきました。 村野みりさんは9歳から社交ダンスを始め、プロフェッショナル競技ダンスの現役選手として国内外の大会に出場すると同時に、ショーやミュージカル、CMなどへの、舞台の振付、そしてインストラクターとしても活躍されています。
男女がペアで踊る社交ダンスですが、テレビや漫画などで何となく知っているけど…という人が多いのではないでしょうか。村野さんは競技として行われる「競技ダンス」と、純粋な楽しみとしての社交ダンスの違いや、ワルツに代表される「スタンダード」、サンバなどの「ラテン」というジャンルの違いを、映像をまじえて説明してくださいました。
社交ダンスにはヨーロッパ、そして中南米のさまざまな地域の踊りのリズムが取り入れられ、ジャンル(種目)となっています。]特に中南米のリズムはさらにルーツをたどるとアフリカにもつながっていきます。このように、社交ダンスを通して世界のリズムの多様さ、そして文化や歴史の多様さへと視野が開かれていく、と村野さんは語ってくださいました。実際に受講生全員で、手拍子でリズムの体験もしてみました。
最後に、近年、村野さんが力を入れている活動として、新郎新婦がダンスを練習して結婚式で披露する「ファーストダンス」という文化もご紹介くださいました。単なるテクニックではなく、パートナーとの関わり方が何よりも重要なのが社交ダンスですが、経験がなくても二人で協力して前進していける楽しさが、映像からもよく伝わってきました。一人で踊るダンスとは違う、社交ダンス独特の魅力を感じることができました。 
―――
村野みりさんが主宰する「ファーストダンス・トーキョー」のウェブサイトはこちらです。
ぜひチェックしてみてください。

2022年7月1日金曜日

6月27日「芸術の現場から」・・・造形作家 森竹巳先生

「芸術の現場から」10回目となる講師は、昨年度まで本学で教鞭をとられていた森竹巳先生をお迎えしました。

森先生は、群馬県太田市生まれで、群馬大学教育学部美術科卒業後、東京芸術大学大学院修士課程修了(基礎造形及び理論専攻)されました。
『構成』を基盤とした平面造形を中心に半立体や立体造形、インスタレーションなど材料も含め多様な表現を試みられています。近年は百円ショップで購入した商品を材料とした『百均造形』も多数発表。
また、太田市役所を始め多くの公共施設にモニュメントを設置、県立館林美術館そばの彫刻の小径にも作品を設置されています。

今回のご講義は、「造形実験の実績」と題して、昨年、太田市美術館・図書館で開催された個展の会場構成に沿った形で進められました。

*この美術館は、「ものづくり」をとおして育まれてきた大田市民の創造性を、これからの「まちづくり」に活かしていくための拠点として2017年に開館。内部と外部、表と裏の境があるような、ないような、気軽に行き来できる溜まり場、迷うことが楽しくなる空間の中で、素敵な作品や本に出会えるよう設計がなされています。
ホームページ参照→https://www.artmuseumlibraryota.jp
まずは、動画で全体の構成を視聴することから始まりました。
平面、レリーフ、立体、インスタレーションなど、さまざまな表現方法で制作された作品群。

G1展示室
「Allusion」のシリーズが展示されています。
ほのめかし、言及、暗示の意が含まれたタイトルで、1986年から制作されています。(世界では、チェルノブィリの原発事故が起こった年、現在の世界情勢は、、、)
幾何学的でとても大きな抽象作品。
分割を基にしたリズムがテーマ。
日常において繰り返される生活のリズム、季節の周期など、さまざまなリズムがヒントになっているようです。

次に、イベントスペースに移ります。
ここでは、立体造形、モニュメントマケットの展示。
テーマの一つに、螺旋(スパイラル)があるそうです。
植物や動物、自然界、気象などにも見受けられるこの螺旋構造、すこしずつずれていくことで形作られる構造の美しさに魅了され続けているそうです。

マケット
設置されているモニュメント

スライドの写真右上は、母校である県立太田高等学校の100周年記念のモニュメントとして制作された作品です。
作品コンセプトを説得、改めて言葉の力を認識しながら、公共空間、野外で長期間展示できる耐久性なども重視しながら制作されました。

続いて、スロープへ。
ポスターカラー、ケント紙、パネルなどで制作された、初期平面構成。モアレシリーズや紙、木、ステンレス、アルミニウムなどの素材で制作されたレリーフが展示されています。
ガラス面には、フラフープによるインスタレーション。

今ではあまり使わなくなったポスターカラーで制作されたこと、学生時代、映画を多く見ていたこと、抽象表現の美術に出会ったこと、実際に作品を見ることや専門書、展覧会の図録が増えていったことで、自ずといい作品がよくわかるように、美的直感も養われた経験などを話されました。

そしてG2へ。
ここには、「百均造形」のタイトルで制作された平面、レリーフ、立体、インスタレーションの作品が並んでいます。
まるで問屋さんのように買い物をされるそうです。在庫がないこともしばしば!

この作品は、何の素材で作られているでしょうか?

実は、楊枝。その数なんと、9万4千本!
根気、集中力、一番時間がかかった作品だそうです。刺す指先の感覚がなくなってくることも経験。
鑑賞者にとって、制作に費やされた膨大な時間の経過が伝わることも作品の強度につながっているのではないでしょうか。
講義終了後、いかに疲れないよう仕事を続けられるか、体の使い方やものの配置、構成など、些細なことにも気を配るのが習慣になっていることや「まゆゆ」「リ、リ、リング」「なみなみならぬなみ」など言葉遊びが大好きで、制作中にタイトルを考えていると伺いました。

「百均造形」とてもキャッチーな響きですね。

「まゆゆ」
「なみなみならぬなみ」

最上部のG3へ。
この部屋の作品は、ブラックライトに反応する蛍光色が使用されている素材で作られています。

最後に、履修生の皆さんに向けて、自身がどうしたいかを突き詰めていくことが大切。
森先生は学生時代に、まず個展の実現を考えたそうです。個展の開催後は、いかに続けていくこと、継続していくことを考えていると。そのためにも今の社会情勢では厳しい面もあるが、海外も含め、別の世界を見ることが創作の原動力にもなる、また日本を再認識することにもつながると締めくくられました。

森先生、素敵なご講義、ありがとうございました!

*画像の一部に、展覧会場で撮影したものが含まれています。 全て©yamazaki