2022年7月17日日曜日

7月11日「芸術の現場から」 彫刻家 黒川弘毅先生

 2022年7月11日の授業では、彫刻家の黒川弘毅先生(武蔵野美術大学教授)にお越しいただきました。

黒川先生は、ブロンズ鋳造技術の研究や、屋外彫刻の保存の専門家でもあります。群馬県では、群馬県立近代美術館の建物前に立つブールデル《巨きな馬》の定期メンテナンスや、館林市にある「彫刻の小径」作品群の市民参加型による保守活動にたずさわっていらっしゃいます。

今回のご講義では、おもに屋外彫刻の保守活動と触覚鑑賞についてお話してくださいました。

まず、レオナルド・ダ・ヴィンチ以来のパラゴーネ(絵画と彫刻との優劣比較論争)の歴史に言及しつつ、多視点性をもつ彫刻の鑑賞は必然的に能動的になると語ります。なぜなら、彫刻の場合、作品の周りを回りながら見るため、身体の運動が伴うからです。
また、美術作品の鑑賞は「楽しむこと」であると、鑑賞の本質に迫ります。

「洗剤とブラシやスポンジを使う」

次に、実例を紹介しつつ、屋外彫刻の保守活動と触覚鑑賞との関係や、彫刻メンテナンスの意義へと話題が展開していきます。

彫刻の保守作業では、作品に多方向から水をかけ、洗剤を用いてブラシやスポンジで洗浄し、ブロンズ作品にはワックスを塗布して光沢を調整しながら仕上げます。
黒川先生は、それらすべての行為が作品を能動的かつ親密に鑑賞する機会となり、触覚と視覚によってある感情が鑑賞者の意識の内部に生まれる、それが「触覚鑑賞」であると説明します。
屋外彫刻の保守は、子どもや大人が市民活動として行うことができるため、美術作品を保存する共同体的意識も形成されるそうです。

黒川先生のご作品紹介

最後に、黒川先生の作品を見せていただきました。

スクリーンに次々と投影されていくブロンズ彫刻「シリウス」「ヘカテ」「ベンヌ・バード」「ムーン・フィッシュ」「スパルトイ」「ゴーレム」「エロース」シリーズの作品群。ブロンズ制作において一般的な原型は用いられず、作品の創出は、ブロンズの自重によって、あるいは砂の穴に直接ブロンズを流し込むことによって生成される形態との邂逅です。作品には、原初的なエネルギーの放出が見られます。

学生からの質問風景

今回のご講義を通して、学生たちは、彫刻を触るという発想に新鮮さを覚えることから始まり、彫刻メンテナンスの意義と「触覚鑑賞」という新たな鑑賞法を学んだようです。また、黒川先生の型にとらわれないブロンズ彫刻の魅力を教えていただきました。

昨年度、本学では芸術学専攻の大学院生を中心に屋外彫刻2点の保守作業を行いました。円形広場の噴水である半田富久《あづまうた》1982年と、「春の庭」の日時計である住谷正巳《鳩(日時計)》1987年です。(本学ウェブページ News & Topics https://www.gpwu.ac.jp/info/2021/11/post-330.html

その際に、群馬県立近代美術館学芸員の方を通じて、黒川先生にご指導いただきました。今回のご講義でその時の保守作業がまさに触覚鑑賞であったことをはっきりと認識することができました。

黒川先生、ご講義をありがとうございました。

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