7月6日の「芸術の現場から」では、ランドスケープデザイナーの安西一憲先生をお迎えし、屋外空間のデザインや、これまで手がけてこられたお仕事についてお話しいただきました。
安西先生は、子どもの頃から絵を描くことが好きで、小学生の頃には漫画家を夢見ていたそうです。その後、高校時代には建築への関心を持ち、浪人を経て東京藝術大学に進学されました。大学ではプロダクトデザインを学び、ものと空間と人との関わりに強く関心を持つようになったといいます。「コミュニケーションの活性化」をキーワードに、特に子ども時代に焦点を当て、人と人、人ともの、人と空間の関わりの重要性を考えながら、アイデアを形にしてこられたそうです。
卒業後は、日立製作所で主に鉄道車両や建設車両デザインの仕事に携わり、スケッチを通してアイデアを伝える経験を重ねられました。その後、再び東京藝術大学大学院へ進学した後、公園や緑地を設計する会社へ就職。独立後は、屋外空間をデザインするランドスケープの分野へと活動を広げられました。
ランドスケープデザインの仕事では、公園、商業施設、個人住宅の庭など、多様な場に関わってこられました。造園設計の会社に入った際には、植物を300種類覚えるように言われたというエピソードも紹介され、屋外空間のデザインには、形や見た目だけでなく、植物、土壌、気候、管理、時間の変化など、多くの知識が必要であることが伝えられました。
中盤の講義では、三鷹の森ジブリ美術館、愛知万博での「サツキとメイの家」、ジブリパークなどの事例も紹介されました。最初のイメージからどのように実際の空間として成立させていくのか、物語の世界観をどのように現実の場所に落とし込むのかについて、具体的にお話しいただきました。訪れる人が歩き、見上げ、触れ、発見することで、その世界を体験できるように設計することの重要性が感じられました。
講義の中盤から終盤にかけては、事前課題の「好きな風景や屋外の場所とそこに対する提案」に関わり、ご自身の好きな風景として北海道のモエレ沼公園を視察された際の印象についてもお話がありました。
イサム・ノグチが基本設計を手がけた同公園の圧倒的なスケール感に強い感銘を受けた一方で、公園内が非常に広いため、セグウェイやパークトレインのような移動手段があると更によいのではないかという提案もされました。大きな屋外空間を人がどのように体験するかを考える視点が印象的でした。
学生が考えてきた「好きな風景や屋外の場所」について、2名の学生が発表しました。学生からは、自然の風景や、植物の匂い、山道に生える草花、季節ごとに変化する景色など、自身の記憶に残る場所とその魅力が紹介されました。
それに対して安西先生からは、風景を考えるうえで、視覚的な美しさだけでなく、匂いや空気感、季節感、そこにある暮らしや人の記憶を捉えることの大切さについてコメントをいただきました。学生にとって、身近な場所を改めて観察し、屋外空間の魅力を言葉にする貴重な機会となりました。
個人住宅の庭の事例では、規模が公園などと比べ小さいからこそ、より細部まで丁寧に検討する必要があることや、住む人の好みや生活の仕方を探りながら提案していくことが紹介されました。安西先生は「できるだけ、すでにあるものを活かしていく」という考え方を大切にされており、既存の木や地形、素材、場所の記憶を尊重しながら、新しい空間をつくっていく姿勢が印象的でした。
屋外空間のデザインでは、動線、ゾーニング、配置計画、造成、排水、舗装、植物、土壌、設備、管理運営、コストなど、多くの要素を総合的に考える必要があります。さらに、植物は成長し、季節によって姿を変え、時間とともに風景も変化していきます。そのため、完成した瞬間だけではなく、数年後、十数年後にその場所がどのように育っていくのかを想像することも大切であるとお話しくださいました。
講義の中で特に印象的だったのは、「デザインは一人では完結しない」という言葉です。ランドスケープデザインの現場では、発注者、設計者、施工者、管理者、利用者など、多くの人が関わります。その中で、自分の考えを正確に伝え、相手の意見を受け取りながら、より良い形を探っていくことが求められます。そのためには、スケッチ、図面、模型、文章など、伝えたい内容に応じたプレゼンテーション方法を磨くことが重要であると語られました。
最後に学生に向けて、外国語を学ぶことで行動の可能性が広がること、時間とお金が許す限り、国内外の場所やもの、人に実際に触れること、自分の引き出しを増やしていくこと、そして自分なりのプレゼンテーションの武器を見つけて磨くことの大切さについてメッセージをいただきました。
講義終了後には、安西先生がご自身で手がけられたランドスケープデザインの資料を多数お持ちくださり、学生たちにお見せいただきました。資料の周りには多くの学生が集まり、実際の仕事の様子やデザインのプロセスに強い関心を寄せていました。
今回の講義は、プロダクトデザインからランドスケープデザインへと広がる安西先生の仕事を通して、デザインがもの単体にとどまらず、人の行動、自然環境、物語、時間の変化を含めた総合的な営みであることを学ぶ機会となりました。学生にとっても、身近な風景や屋外空間を新たな視点で見つめ直すきっかけとなる講義でした。














