2021年6月25日金曜日

R3年度西洋美術史実地研修1


5月に予定していたものの、延期して6月の実施となった第2回の実地研修では、桐生市の大川美術館に訪問しました。

入館前に一人ずつ検温を受けて入館。

まずは企画展「大川美術館コレクションによる20世紀アート120」から見学。

元は社員寮であったという建物内を活用した展示室に20世紀を代表する画家たちの作品が並びます。学生たちはエコール・ド・パリ、ウォーホル、ベン・シャーンなど事前学習で下調べした流派や画家の作品を実地に鑑賞します。


大川美術館は創設者の大川栄二さんが日本の近代画家・松本俊介の作品と出会ったことから始まった美術館で、現在館内にはクラウドファウンディングによって実現した松本俊介のアトリエの再現を見ることができます。





              今回の実地研修では、特別に田中淳館長からレクチャーをいただけることになりました。(館長は今年「芸術の現場から」の授業でも本校でご講義いただいております。そちらの様子はリンク先から→https://kenjo-bigaku.blogspot.com/2021/04/2021.html

  

大川美術館の設立の経緯、松本俊介のコレクションに始まって彼に関連するだろう国内外の作家の作品を収集していったか、同時開催の企画展「藤島武二のスケッチ100-画家が歩んだ明治・大正・昭和」についてお話しいただきました。

藤島武二のスケッチを食い入るように鑑賞。

 また、今回はご厚意で、現在海外に行って作品を見る機会を得られない学生たちのために以前、同館で開催された「模写展」で展示された模写作品も再展示くださいました。模写といっても、画家、修復家からなる「古典絵画技法研究会」によるもので、当時の技法や材料を研究したうえでの本格的な古美術の再現です。展示されていたのは14世紀イタリアの画家シモーネ・マルティーニの《受胎告知》(部分)、同時代のジョット《荘厳の聖母》(部分)、15世紀のフランドル画家ロベール・カンパン《磔刑》部分、16世紀の北方の画家ピーテル・ブリューゲルの《鳥罠のある冬景色》といった時代、地域、技法の異なる4点の模写。


ことに国際ゴシック様式の先駆けにもなったマルティーニの金地背景のテンペラ画は当時の技法の粋を尽くした作品です。中世から初期ルネサンス期までは主流だった卵をつかったテンペラ技法で描かれた作品を日本国内で見る機会はなかなかありません。また、国内外を問わず、現在我々が見ることができるテンペラ画は数百年を経ており、金箔が剥がれたり、顔料が変色しています。もちろん、保存状況がよく、適切な修復がなされた作品も多く残っていますが、描かれたばかりの上体とは言えません。その意味では、模写とはいえ、制作後数年の金地背景のテンペラ画の豪華な画面を見れたのは貴重な経験だったでしょう。


あいにくの雨の中での実地研修となりましたが、20世紀アメリカ美術、近現代の日本美術、あわせて中世末期からルネサンスの模写と多様な美術を見る機会を得られました。
田中館長はじめ美術館の皆様、ありがとうございました。

2021年6月18日金曜日

2021年度「芸術の現場から」     横山義志先生ご講義「どうすれば舞台芸術で「食って」いけるのか」

6月14日の「芸術の現場から」はSPAC(静岡県舞台芸術センター)の文芸部にいらっしゃる横山義志先生に、「どうすれば舞台芸術で「食って」いけるのか:コロナ禍における芸術活動支援から考える」というテーマでお話をしていただきました。

SPACは静岡市の「舞台芸術公園」のなかに立派な野外劇場「有度」を含む複数の劇場を持ち、また東静岡駅のすぐ隣の「静岡芸術劇場」や、駿府城公園でも公演を行っている静岡県立の劇団・劇場組織です。

コロナ禍における芸術活動支援について受講生にしらべてもらった先生は、それが1)厚労省、2)経産省、3)文化庁の三つの省庁から行われていることを確認し、厚労省のものが主として労働者の「賃金・給与」を対象にし、経産省のものが主として事業での利益を対象にしているのに対し、文化庁のものがそれに加えて「文化芸術活動」への謝礼を対象にしていることに注目します。

アートには、事業や労働とは別種の「謝礼」という収入があるのですけれど、それがどういう性質のものなのかを西洋のアートの歴史を遡って説明されます。

アートは共同体やその宗教儀礼に必要な「技術」として始まったのですが、中世にはギルドを持つ「職人芸」とみなされ、近世にアカデミーが作られることで天才である「自由人」の学芸と見做されるようになりました。また近代に入ると、「市民」として社会での機能が強調されるようになり、二十世紀には「芸術労働者」としての役割が強調されるようになります。そして「自由人」、「自由業」としてのアーティストに相応しいのは、報酬ではなく「謝礼」という言葉だったのでした。
職人芸としてのアートの評価はギルドの他のメンバーが、アカデミー型のアートの評価は有識者が、社会型のアートの評価は受容者が中心になっていました。現代のアートはこの三つの評価がバランスよく得られることによって成り立っていると指摘されたのでした。

ですからアート、あるいはアーティストにはもともと、近代的な経済の枠組みからはみ出すところがあります。実際、演劇を専攻する私立大学の増加は、比較的裕福な階層の出身者が演劇の現場を「食えなくても」続けるという傾向を強めたかもしれないと先生は指摘されました。
舞台芸術、とりわけ演劇では、「ライブ」だけで「食っていく」のはもともと難しいのです。そしてコロナ禍はその困難をさらに深めてゆきます。一回性、ライブ性を重んじる演劇がオンラインというメディアにうまく適合しないことと、コロナ禍での経済格差の拡大により庶民が観劇に使えるお金が減ってきたことです。

そのなかで「舞台芸術」を「続ける」ことはどうやったら可能なのか、コロナ禍で深まった舞台芸術の危機はそれ以前からも存在していました。
舞台芸術は「人件費」が多くを占める芸術です。それを賄う公的資金、民間資金は増やすことができるのか、コストは減らすことができるのか、他に道はあるのか、解決が見出されているわけではありませんが、まさにみんなで考えていきましょう、というのが先生のご講義の結論でした。

簡単な希望や展望を示す、というお話ではなく、舞台芸術に固有の「食っていけなさ」についての歴史的経緯と現状を分かりやすく説明されたご講義でした。

2021年6月7日月曜日

2021年度「芸術の現場から」5月31日 明珍素也先生によるご講義

5月31日の授業には、明珍素也先生をお迎えして、「彫刻の保存修理ー日本の文化財を対象とするー」と題してご講義を頂戴しました。明珍先生は、仏像などの立体的な文化財の保存修理をする工房である株式会社明古堂の代表で、武蔵野美術大学客員教授も務められています。

今回のご講義では、まず仏像の様々な造像技法やの解説から始まりました。一木造、寄木造、割矧造といった各技法について、わかりやすい説明があり、次いで木彫の場合の樹種にも触れられました。次に、仏像にはどのような荘厳がなされているか(荘厳は仏を飾ること、この場合は仏像の表面にどのような仕上げを施すかということ)について説明があり、制作・修理に欠かせない漆のお話しもなされました。


後半では、具体的な修理事例における様々な問題が紹介されました。修理技術の解説はもとより、文化財修理の方針や理念などについて、幅広いお話しがありました。現在基本となっている保存修理は、推定などによる復元は極力避けて、現在残されている姿がそのまま後世に伝えられるように修理するという方針で行われるということで、必ずしも修理後の見た目がいわゆるピカピカになるわけではないとのことです。

また、修理の方針によっては、一度部材を全て解体してバラバラにしてしまうこともあり、解体された様子も画像により説明されました。


ご講義の全編にわたって、修理現場でしか得られない貴重な画像が豊富に用いられ、学生一同、終始引きつけられながら90分が過ぎてしまいました。

大変得がたいご講義ありがとうございました。

2021年6月3日木曜日

「アートマネジメント特講1」の授業で茨城県近代美術館の「ハローミュージアム」を体験しました。

6月3日の「アートマネジメント特講1」の授業ではオンラインでの教育普及事業を活発に行っている 茨城県近代美術館の「ハローミュージアム」というアウトリーチ事業を体験しました。 zoomを使って授業時間に担当の方とつながり、 交流を深めながらオンラインでの鑑賞を試みました。 今回はモネの作品の一部を拡大してみてみることで、 色について考えたり、感じたことを自由に発表してみました。 担当の方は本学の卒業生の中村さんということもあり、 お仕事について、また在学中の様子などもお話ししていただき、 学生たちも親しみを持って参加することができました。
最後の20分はオンラインでの鑑賞について感想を述べたり、 美術館への質問など活発な発言が見られました。 教育普及事業のバリエーションやオンラインならではの強みを生かした 試みとなり、とても充実した時間になりました。 茨城県近代美術館の皆様、ありがとうございました。