2018年11月30日金曜日

「芸術の現場から」(県民公開授業) 日本舞踊家の花柳榮輔先生による御講義

リレー講座の第7回(2018.11.27)は、日本舞踊家の
花柳榮輔先生にお越しいただきました。


花柳先生は、花柳流の踊りのお師匠で、東京、京都で古典と創作の舞踊活動を行っていらっしゃいます。また、流派を超えた男性舞踊家集団「弧の会」のメンバーでもあります。

『吉野山』向かって左の男役が花柳先生

今回は、まず日本舞踊の成り立ちや特徴についてお話をうかがいました。
歌舞伎舞踊から派生した日本舞踊には、「舞・踊・振」の3つの要素があるそうです。それぞれ、まわる(旋回歩行運動)、躍上る(音に乗って躍動)、物真似(具象的な動作)を表します。



また、男女の性差、年齢差、役柄の表現の違いを学びました。
肩を張って腕や脚を開くと男性らしく、肩を狭くして袖の袂を持ち、頭を少し傾けると女らしくみえると、実演もまじえて解説していただきました。


扇子などは、手紙や波など様々なものを表現する持ち道具。
広い舞台では、観客の視線や意識を捉えやすくする力をもつとのことです。
お稽古の開始と終了時にも、扇子は結界を結ぶ大事な役割を果たします。


最後に、場面や動作の解説をうかがいながら、「弧の会」の創作舞踊『御柱祭』(おんばしら)を見せていただきました。この舞踊を創作するためには、現地取材もなさったそうです。

紋付き袴姿の素踊り。舞台美術もありません。しかし、太鼓の音が教室中に響き渡り、力強い舞踊や掛け声、その都度変化する照明に魅了され、みるみるうちに幻想的な空間に引き込まれていきました。
一見同じような動きをする群舞の中にも、舞踊家たち一人ひとりの個性が光るよう演出されていました。それが「弧の会」の「弧=個」なのですね。


「弧の会」では、古典舞踊を核にしながら新しい作品を作っているそうです。

新たに作る作業をすることによって、古典作品を作った人々の意図を知ることができるため、この作業は不可欠なものとのこと。「創作なき伝統はない」というが、その通りだと思うと語られました。

また、日本舞踊は人間の日々の営みが作品になっていて、むかし、今の私たちと同じ思いを持った人がいたことがわかるとのこと。皆さんも「宝探し」をするような思いで、日本舞踊の中に自分の心に通じる何かを見つけていってほしいと語りかけられました。

今回のご講義を機会に、学生たちもぜひ会場で舞台を拝見したいと強く思ったようです。

花柳先生、ご講義をどうもありがとうございました。


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平成30年度「芸術の現場から」
10月~来年1月 火曜16:20~17:50 群馬県立女子大学 新館1階第1講義室にて
スケジュールはこちらをご覧ください。
https://www.gpwu.ac.jp/dep/lit/art/2017.html

2018年11月27日火曜日

「芸術の現場から」(県民公開授業) 能楽大小鼓方の大倉源次郎先生による御講義

リレー講座の第5回(2018.11.6)は、能楽大倉流小鼓方十六世宗家、大倉源次郎先生にお越しいただきました。
大倉源次郎先生は、現在の能楽を牽引する小鼓方であり、昨年には重要無形文化財(いわゆる人間国宝)にも認定されました。
世界各地を飛び回って国際的に活躍されている先生のご講義は、打楽器を通して文明の伝播を見渡す、スケールの大きな話題から始まりました。アフリカのトーキングドラムと能の小鼓がどちらも砂時計型の締太鼓(革を紐で張って胴に固定する太鼓)であること、同じ形のものがスリランカやオーストラリアにもあり、文明のつながりが垣間見られること。そして打面に馬の革を用いるのは朝鮮半島と同じだが、インドやインドネシアでは蛇の革を使用していること。太鼓は「世界中の色んな先人の叡智の賜物」という先生の言葉が印象に残ります。
馬革を鋼の輪に張り、桜の木で作られた胴に麻縄で固定します。新しい革は鳴る音が弱く、「5年、10年、30年と打ち続けて音を『育てる』」のだそうです。それゆえ実際の舞台で使われている小鼓は数百年前のものがザラであるとのこと。
続いて実際に小鼓の演奏を聞かせて頂きました。引き締まった革と声の響きの迫力で教室の空気まで澄み渡るように感じられました。その後、先生から受講者に「さて、どんな風に構えてましたか?」と問われます。何となく見てはいても、実際はほんの一部にしか注意が向いていないので、思い出せないものです。ただ見たり聞いたりするだけではなく、「芸術と語らう時間、体験する時間」が大事だと先生は話されていました。
続いて、左手を小鼓に見立て、「エア小鼓」を打ってみます。次に鳴らす一番いい音を自分の中でイメージする、音と音の間(ま)を取る(「コミを取る」)、お腹から力が湧いてくるように掛け声を出すなど、初心者にもわかりやすいご説明で、楽しく稽古を受けさせて頂きました。新しいことを学ぶ時にはとにかく師匠の言う通りにするのが大事、なぜなら「今までの常識を捨てて取り組むのが稽古」だから、と先生は話されていました。
最後に、能が江戸幕府の式学として日本中に広まり、統一言語を生み出したこと、またこの時代の能が「神・男・女・狂・鬼」の五つの演目を順に演じる「五番立」の形式を取り、これが人の現在・未来・過去とそれを救済する神や仏の姿を示すものであることなどを教えて頂きました。単に古いものだから受け継いでいくのではなく、「先人の叡智の賜物」としての価値を理解することが重要という先生のお話は心に響くものがありました。

大倉源次郎先生、ご講義をどうもありがとうございました。


大倉源次郎先生のウェブサイト http://www.hanatudumi.com/

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平成30年度「芸術の現場から」
10月~来年1月 火曜16:20~17:50 群馬県立女子大学 新館1階第1講義室にて
スケジュールはこちらをご覧ください。
https://www.gpwu.ac.jp/dep/lit/art/2017.html

2018年11月16日金曜日

「芸術の現場から」(県民公開授業) 美術番組プロデューサーの倉森京子先生による御講義

リレー講座の第6回(2018.11.13)は、NHKエデュケーショナルから
美術番組プロデューサーの倉森京子先生にお越しいただきました。


倉森先生は「日曜美術館」や「びじゅチューン!」などの番組制作を
担当なさっています。「日曜美術館」は、知らない人はいないほど有名な番組。
「びじゅチューン!」も子どもや若者の間で大ブレイクしており、やはり本授業の学生も見たことがあるという人がほとんどでした。


今回のご講義では、まず「びじゅチューン!」の制作について最新の『指揮者が手』を例にあげ、作詞・作曲・アニメ・歌のすべてをこなす井上涼さんのアイデアが、どのようにして番組として出来上がっていくのか、お話をうかがいました。

次に番組制作の一般的な過程について。取材、提案、さらなる取材、構成、撮影、そして編集、仕上げといくつものプロセスを経て、番組は完成へと進みます。

そのすべてを担当するディレクターや全体統括のプロデューサー(倉森先生によれば「伴走者」)をはじめ、カメラマンや照明・音声担当者、編集マン、ナレーター、音響デザイナーなど、いかに多くのスタッフが関わって1本の番組を作り上げていくのか、教えていただきました。


最後に桂離宮の番組を2本紹介していただき、冒頭の数分間を比較しました。
重厚で威厳に満ちた「NHKスペシャル 桂離宮 知られざる月の館」と、艶やかに宙を舞うような「特集 桂離宮 心愉しき美の館」。

撮影してきた同じ素材をもとに、編集や音響、ナレーションでここまで異なる構成の番組が生まれるものなのかと、見ている皆が驚きました。


テレビ番組制作はさまざまな可能性にあふれています。
「正解はいくらでもある」。
そのお言葉で、勇気と希望をもらいました。
大学での学びや研究においても、そして人生においても同じことがいえます。

倉森京子先生、ご講義をどうもありがとうございました。


NHK Eテレ
日曜美術館   http://www4.nhk.or.jp/nichibi/
びじゅチューン! http://www.nhk.or.jp/bijutune/


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平成30年度「芸術の現場から」
10月~来年1月 火曜16:20~17:50 群馬県立女子大学 新館1階第1講義室にて
スケジュールはこちらをご覧ください。
https://www.gpwu.ac.jp/dep/lit/art/2017.html

西洋美術史実地研修2(第3回)に  行ってきました!

秋も深くなり、少しずつ冬の気配を感ずるようになってきました。
第3回の実地研修は東京に出掛けました。

午前中は、三菱一号館美術館の
「フィリップス・コレクション展」を見学しました。


フィリップス・コレクションは、アメリカで近代美術を扱う最初の美術館として1921年に開館した私立美術館です。モネやドガ、ゴッホなどの作品が蒐集されています。暖炉の上に絵が飾られている部屋の写真を見ると、今回の展覧会は、同じく暖炉があるこの三菱一号館美術館にぴったりではないでしょうか。

事前学習の発表風景

三菱一号館美術館は、明治にイギリスからやって来た「お雇い外国人」ジョサイア・コンドルによって設計された事務所(1894年建設)を復元した建物です。
ちなみに、東京駅の設計者はコンドルに師事した辰野金吾です。



中庭はもうクリスマスの装い。その傍らで桜の花が咲いていました。
不思議な光景ですね。

午後は上野に移動して、
東京国立博物館・フィラデルフィア美術館の交流企画特別展
「マルセル・デュシャンと日本美術」を見学しました。


「快慶・定慶のみほとけ」展も美術の勉強になるのですが、学生はセット券よりも別売りのほうが安価というので、西洋美術史の本授業ではデュシャン展のみ、希望者は別途購入ということにしました。

事前学習の発表風景

最初に落ち着いた空間を求めて東洋館に行き、そこで事前学習の発表をしました。
デュシャンと「レディ・メイド」、それからフィラデルフィア美術館について。
「既製品」である男性用便器を作品《泉》として展示し、問題提起をしたことで有名なデュシャンですが、ほかにどんな作品を制作していたのでしょうか。
そして、なぜ、どのような点が「デュシャンと日本美術」なのでしょうか。

口を開けた脇のライオン像を真似て?

会場の平成館に向かう途中、表慶館の前で集合写真を撮影しました。
表慶館は、ジョサイア・コンドルの別の弟子、片山東熊による設計(1909年開館)です。正面玄関では、2頭の青銅製のライオンが脇でかまえています。「阿吽」の像ですね。


デュシャンの空間で遊び、その後に日本美術の空間に入りました。
並ぶ日本の品々と解説文、デュシャン作品の写真。
「『美術』を見るのではなく、『考える』」というこの展覧会のねらいどおり、
学生たちも自問自答したり、話し合ったりしながら、
たしかに様々なことを考えさせられたのではないでしょうか。
そういう良い機会を与えられました。

本当は「フェルメール展」も見学したかったのですが、事前の予約と支払い、変更不可というハードルが高すぎて、授業としては断念しました。

さて、残るは最終回のみ。
皆で元気にまたお会いしましょう。

2018年11月5日月曜日

「芸術の現場から」(県民公開授業) デザイナーの高橋美喜先生が御講義

リレー講座の第4回(2018.10.30)は、株式会社イトーキからデザイナーの
高橋美喜先生にお越しいただきました。


事務用品やスチールデスクでよく知られるイトーキは、1890(明治23)年に創業された老舗です。創業者の伊藤喜十郎氏は、「ホッチキス」や「万年筆」の命名者でもあるそうです。 


会社のミッションステートメントは、「明日の『働く』を、デザインする。」
高橋先生は、市場別プロジェクトデザイン設計室に所属し、大学等の教育施設や図書館等の公共施設のデザインに携わってこられました。


私たちが学んだり、働いたりする空間や環境とはどのようなものか。
どうしたら快適に過ごすことができるのか。 実際に利用する人たちに寄り添い、かつ創造性豊かに、空間全体をデザインしていくことを学びました。


大学や図書館、オフィスなどの事例を幾つも紹介していただき、たんなる機能性を超えた、革新的なデザインやコンセプトに驚きあこがれ共感する学生も多かったようです。 

それぞれのライフスタイルにあわせた空間デザインは、心にも活力を与えてくれます。 学修や仕事の在り方についてあらためて考える良い機会ともなりました。

高橋先生、ご講義をどうもありがとうございました。

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平成30年度「芸術の現場から」 10月~来年1月 火曜16:20~17:50 群馬県立女子大学 新館1階第1講義室にて スケジュールはこちらをご覧ください。 https://www.gpwu.ac.jp/dep/lit/art/2017.html