2022年6月24日金曜日

6月20日「芸術の現場から」・・・ヤマト運輸海外美術品支店 中村まのさん

 620日の「芸術の現場から」では、ヤマト運輸で美術品の輸送に携われている中村まのさんをお招きしてご講義いただきました。

中村さんは、本学の美学美術史学科の卒業生でもあり、在学中にはフランス19世紀の画家エドゥアール・マネに関心を持ち、入学当初から熱心にフランス語を学ばれ、フランスにも短期・長期と合わせて二度の留学を経験され、マネの作品について優れた卒業論文を書かれました。その後、他大学の大学院に進学され、修了後、現在のお仕事に就かれました。

美術輸送の仕事については、学芸員関係の授業で見た仏像の梱包の様子に感銘を受け、興味を持たれ、大学院時代に行われたオークション会社でのアルバイトで作品の展示、梱包、発送の仕事をしたことから、美術品をモノとして扱うという、それまで経験していたのとは異なるかたちでの美術作品との関わりに興味を持ち、就職先として具体的に美術輸送を扱う運輸会社を考えるようになったそうです。

中村さんご自身の仕事は主に個人コレクターを対象とする海外美術品輸送ですが、ご講義では、国内輸送や美術館の展覧会関係の輸送も含めた美術品輸送全般についてお話しいただけました。ひとくちに輸送といっても、輸送をどのような手段で行うのかや、海外からの輸送の場合は通関業務もあり(国内であっても)輸送に伴う様々な事前準備や書類のやりとりなど様々な工程を経て、ようやく作品がある場所からある場所へ動くそうです。

そうしてようやく梱包、発送、展示。輸送の各過程がいかに繊細で、注意を要するものなのか、スライド資料や動画資料をまじえて、丁寧に説明してくださいました。

      (海外からの輸入:入念なチェックを経て梱包し、日本に着くまでは開梱されません)


(飛行機や車に載せる際には進行方向に対する美術品の向きも決まっているそうです。厳密な管理の下で輸送されてくるのですね。左は美術専用車の中)

本来、作品保護のためには動かさないことが一番の作品を輸送するには様々な注意事項もあり、時には国際条約が輸送のネックともなり、それらをクリアするには、非常に煩瑣な仕事をしなければならないこともあることもあるそうです。具体的に紹介していただいたエピソードから中村さんの真摯な仕事ぶりが伝わってきました。

                (実際の展示風景の動画:作品は必ず複数で動かすそうです)

マスクは作品保護のためコロナがあってもなくても着用。手袋は場合によっては外すとのこと。ただし、作品を傷つけないよう指輪などは外し、爪も切りそろえ、女性はネイルもつけないそうです。

運送会社というと、帽子姿のイメージですが、帽子も作品の上に落ちて傷つけるといけないからと、この仕事に携わる方々は無帽となっているそうです。

作品はクレートという箱に収めて運ばれます。講義では最後にそのクレートの模型も見せてくださいました。


表面には様々な情報が記されており、この文字列が貴重な作品を無事に輸送させてくれるそうです。

中身は何層にもなっており、これが作品を衝撃や振動から守ってくれるのですね。

 作品の大きさと箱の大きさを考えると、いかに厳重な保護か分かりますね。

 普段、美術作品に展覧会などで接していても伺い知れない様々な興味深いお話ばかりでしたが、特に印象深かったのが、作品の取扱にあたって留意することのひとつとして挙げられていた「常に作品の所蔵者の立場に立って、不安を抱かせるような言動をしない」という言葉でしょうか。

作品というモノだけではなく、それを所蔵している個人や美術館、企業で作品に携わる人々のココロも扱われているお仕事だというのが伝わってきました。

 美術品輸送には予想以上に多岐にわたる仕事が伴っていることが分かり、わたしたちが展覧会などで作品を見れるのも、ひとえにこのような裏方のお仕事があってこそなのだという感謝の念が湧いてくるようなご講義でした。


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