2025年7⽉14⽇、群⾺県⽴⼥⼦⼤学にて、メディアプロデューサー・アートディレクターとして活躍する中⾕⽇出(なかや・ひで)先⽣による講義が⾏われました。
講義の冒頭、先⽣は「本⽇出会った学⽣のみなさまと、これからつながっていきましょう!」と語りかけ、90分にわたって、⽣成AI時代における⼈間の学び・創造・つながりについて多⾓的に展開されました。キーワードは「アンラーンnlearn)=既存の考えを⼿放す」。情報社会、デザイン教育、アートの役割などを縦横無尽に語る内容でした。
■ 1. はじめに ― アンラーン(unlearn)しよう
講義の冒頭、中⾕先⽣は「180度、意識を変えましょう」と⼒強く語りかけました。現代社会では、私たちはつい既存の知識や常識に縛られがちです。しかし、AIやVRと共⽣するこれからの時代においては、「アンラーン(unlearn)」=学び直し/⼿放すことが不可⽋であると先⽣は説きました。
■ 2. ⽇本⽂化と“つながり”の精神
先⽣は、⾃ら京都で営む茶室の活動を紹介しながら、「⼀期⼀会」や「私淑(ししゅく)」といった⽇本⽂化の精神について語られました。千利休や本阿弥光悦を敬愛する⼀⽅で、レオナルド・ダ・ヴィンチにも「遠く離れた先輩」として親しみを感じているとのこと。時空を超えた“つながり”こそが、創造⼒の源であると強調されました。
■3. 情報のデザインと⽣成AI
講義では、⽣成系AI(Generative AI)の可能性と限界についても語られました。
・⽣成AIは「習いにくい」=教育システムがまだ追いついていない
・AIは「イメージを実現するアシスタント」
・これからは「情報デザイン」の⼒が重要:図解、要約、⼩説のキャラクター分析などのスキルが必要
特に紹介されたのが、「アップとルーズで伝える」という情報伝達の⼿法です。
・「ルーズ」:引いた視点で、共感や雰囲気を伝える
・「アップ」:寄った視点で、焦点や本質を的確に伝える
このアプローチは、図解による企画書づくりやSNSでの発信にも活かされているとのことでした。
また、中⾕先⽣は「Moonshot=⽉に向かって創る」という⾔葉にも触れ、未来を⾒据えた挑戦の重要性を語られました。これは⽇本政府が進める「ムーンショット型研究開発制度」にも通じるビジョンであり、AI・ロボティクス・VRなどの先端技術を活⽤して2050年の社会変⾰を⽬指す国家プロジェクトでもあります。
「こうした未来志向の挑戦を、私たち⼀⼈ひとりが“⾃分の軸⾜”を持ちながら進めることが⼤切」と語り、失敗を恐れずチャレンジする姿勢の必要性を学⽣たちに⼒強く伝えられました。
■ 4.Eテレ、VR、デジタル教育への関与
中⾕先⽣は、Eテレの「デザインあ」「2355/0655」「いないいないばあっ!」「天才てれびくん」など、数多くの⼦ども向け番組の制作に携わってこられました。また、⾼齢者運転標識や障害のある⽅のマークのデザインも⼿がけられています。これらの番組やマークの制作を通して、「⼈に共感される情報設計」の重要性を深く実感されたとのことです。
さらに、「エンターテイメント⼤学」の学⻑として、オンライン学習やSTEAM教育にも取り組まれており、VR空間を活⽤した“学びの劇場化”という新たな教育のかたちについても語られました。
■5. 図解と思考のOS ― 「図で考える」ことの意味
中⾕先⽣は、「英語」「プログラミング」「MBA」などのスキルを⽀える⼟台として、『図で考える⼒』こそが“思考のOS”であると強調されました。図解は、情報を整理し、構造化し、他者と共有するための根本的なツールであり、あらゆる分野で応⽤可能な“学びの基盤”となります。
講義では、図解が情報理解を助ける理由として、次の4点が⽰されました。
・視覚で直感的に理解できる
・重要な点がすぐに⾒える(整理→整頓→図化の3ステップ)
・情報の関係性が⾒やすくなる
・記憶に残りやすい
また、情報を“美しく⾒せる⼒”として、デビッド・マキャンドレスのデータビジュアライゼーションも紹介され、「図解は最強のクリエイティブツール」であると述べられました。
■ 6. 社会の中のデザイナーを⽬指して
「社会の中で機能するデザイナーであれ」という⾔葉とともに、中⾕先⽣は、「情報化社会を読み解く⼒=⽂脈(コンテクスト)理解」がますます重要になると強調しました。
・医療・介護分野でのロボット開発
・サイバーセキュリティ政策への提⾔
・東京FMでのラジオ活動
など、ジャンルを横断した先⽣⾃⾝の多彩な活動を紹介され、「領域を超えたデザ
イン」の実践例として⽰されました。
■ 7.視点の拡張 ―《Powers of Ten》と「アップとルーズ」
講義の中盤では、チャールズ&レイ・イームズによる映像作品《Powers of Ten(10の冪乗)》が紹介されました。ピクニック中の⼈物から宇宙空間へ、そしてミクロの細胞レベルへと、視点を拡⼤・縮⼩していくこの映像は、「視点を変えることの⼤切さ」を視覚的に伝える名作です。
この作品をふまえ、中⾕先⽣は再び「アップとルーズ」という情報の捉え⽅に触れ
ました。
・ルーズ:全体像や背景をぼんやりと捉え、共感を⽣む
・アップ:的確に焦点を当て、意図を明確に伝える
このように視点を⾃由に⾏き来する⼒こそが、⽣成AIやVRが進化する今の時代における“⽂脈を読む⼒”に直結する、と先⽣は述べました。
「⽂章を書くときも、まず“ルーズ”で共感を引き出し、次に“アップ”で本質を伝える。それが⼈を動かす表現につながる」とのアドバイスも、学⽣たちの⼼に残ったようです。
■8. 最後に ― VRとAI時代を⽣きる⼒
講義の最後に中⾕先⽣は、VR(仮想現実)やAI(⼈⼯知能)の進化が、これからの学びや社会にどう影響するかについて語られました。1990年代のVRの誕⽣とともに紹介されたのが、「AIPキューブ」という考え⽅です。これは、VR体験を構成する3つの重要な要素を⽴体的にとらえるモデルです:
・A:⾃律性(Autonomy)
・I:相互作⽤(Interaction)
・P:存在感(Presence)
このモデルは、⼈と空間、体験のデザインに深く関わる概念であり、教育や芸術の分野でも応⽤されつつあります。続いて中⾕先⽣は、⽣成AI時代を⽣き抜くために必要な「7つのチカラ」を提⽰されました。これはAIを“使われる”のではなく、“使いこなす”ための基本姿勢とスキルです。
・AI活⽤マインド:AIと前向きにつきあい、活⽤する意識
・AIキホン理解⼒:AIの基礎的な知識をおさえる⼒
・AI仕組み理解⼒:AIの動作原理や限界を理解する⼒
・AI事例収集⼒:最新の活⽤事例を知る⼒
・AI企画⼒:AIを使って新しい企画を⽴てる⼒
・AIプロンプト⼒:AIを動かす具体的な指⽰を出す⼒
・AIマネジメント⼒:AIをチームや社会の中で活かす⼒
「テクノロジーが進化する今こそ、⼈間らしい感性と創造性を⼿放さずに、AIと協
働していくことが未来を切り拓く鍵になる」と、中⾕先⽣は学⽣たちに⼒強く語り
かけ、講義を締めくくられました。
■まとめ:アートと社会、情報と教育の交差点で
中⾕先⽣の講義は、⽣成AI時代を⽣きる私たちが「何を⼿放し、何を創るか」を深
く問い直す時間となりました。アートの視点から社会を⾒ることで、社会そのもの
がアートとなり得る。そして、「何をもってアートとするのか」という問いこそ
が、未来の創造に向けた第⼀歩であることを、改めて考えさせられる90分でした。
 
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