2021年8月2日月曜日

2021年度「芸術の現場から」 7月19日(月) 本学卒業生の片山真理先生による講義

7月19日、ゲスト講師の最後は、片山真理先生を迎えて行いました。
片山先生は本学美学美術史学科を卒業後、東京藝術大学大学院研究科先端表現専攻に進学、修了作品が「アートアワードトーキョー丸の内2012」でグランプリ受賞。現在、国内外の多くの展覧会に出展されている、日本を代表するアーティストのお一人でもあります。
2019年にユナイテッドヴァガボンズ社から出版された写真集『GIFT』を出版。国際展の中でも歴史ある第58回ヴェネツィア・ビエンナーレの企画展「May You Live in Interesting Times」に招待されました。出版及び存在感ある展示が評価の対象となり、第45回木村伊兵衛写真賞を昨年、受賞されました。

講義は、前半が主に大学時代までについて、後半は卒業後の制作活動や制作への思いを語り、前半と後半の終わりで質疑応答をはさむという、片山先生の提案による対話形式で展開しました。

はじめに、今の作品につながる系譜として、おばあちゃんやお母さん、みんながいろいろなものを自分で裁縫してつくるような環境で育ったこと、家族の服を裁縫している姿が身近にあり、自然に興味を持ったこと、片山先生も3〜4歳の頃から、チクチクと作りはじめたこと、針と糸があればなんでもできること、この楽しさが原点にあると話されました。

そして商業高校在学中、英語で日記を書いてSNSにあげていたことなどから始まり、進路の選択にあたり就職のための小論文を書くことが求められ、どうしても書くべきことが見つけられなかった。自身の義足に絵を描いていたことを進路指導の先生(美術を担当)が知り公募展を紹介され、応募することになった。その公募展とは、現在も若手美術作家の登竜門である「群馬青年ビエンナーレ2005」。片山先生は当時16歳、作品を見せるためにあまり意味なく使用していたイーゼルも展示されることになった『足をはかりに』で見事、入選を果たし、奨励賞を受賞。
この受賞が、就職ではなく進学、つまり本学の美学美術史学科を選択することにつながったそうです。

本学在学中、服飾部に入って実技棟でファッションショーを企画したことや、バンド活動をしていたこと、通学の途中、運転する車内から撮影していた写真を映しながら当時のことを話されました。
撮影の対象は人間がつくったものが多く、「人間はなんでもできる」そんなことを考えながら、次第に「人間」への興味が湧き、自身の身体について考えるようになったそうです。

前半の講義の後、ここで大学時代について質疑応答の時間になりました。

「どの科目を履修していましたか?」という質問に対しては、実は片山先生は、実技科目などはほとんど履修しておらず、当時教壇に立っていた美学担当の教員の思い出や、語学にとても興味があり、多くの言語を履修していたことを話されました。

講義の後半は、大学院を出て作品にどう向き合っているかが話題の中心に。
大学院進学にともない、群馬から離れて暮らすようになったこと、同時に車を手放したこと、群馬=車社会であることから、片山先生にとって、車を手放すことは一種のアイデンティティの喪失ともいえるほど大きな体験だったことが語られました。
その後、社会に出て経験を重ねていく上で、重要なものを失うことが、今まで「自分らしさ」とは何かという強い意識から、むしろ「自分がない」ことを強く実感するようになり、本質的なオリジナリティを突きつめることを意識するようになったそうです。

ここで紹介された作品が、2014年にTRAUMARIS|SPACEで発表された初の個展『you’re mine』。
自身を型取ったオブジェ、ナチュラルではない不自然なセルフポートレート、合わせ鏡を用いたインスタレーション作品。合わせ鏡に移る永遠性、続いていくことの怖さなどもコンセプトとしていたことなどを説明され、ターニングポイントとなった作品でもあるそうです。

ここ数年は、風景を撮影していること、きっかけは出産を機に家を片付けたことであり、残ったものがカメラだけ、ここから何ができるのか、生まれ育った群馬を、作品をとおして見つめ直すことなどがテーマになっています。
依頼される場が広くなると、作品にそれなりのボリュームが必要になります。一方で、自分には、できることとできないことがある。できないことはできる人に任せればいい。ここ最近は、そのような考えで制作を行っていると話されました。

写真集『GIFT』にある1枚。生まれる前から、生まれた子供のことを考えながら制作したオブジェ。片山先生や配偶者の指を転写した布などでつくられています。
願いを込めて作った作品の展示を終え、もしかしたら子供にとって、この作品は欲しくないものなのかもしれないと感じたそうです。そんなことを考えていた時に、「GIFT」という言葉は、ドイツ語の意味に「毒」という意味もあることを知り、腑に落ちたことで『GIFT』とタイトルをつけたと話されました。

『cannot turn the clock back #009』 2017 (c)Mari Katayama

この1年は、日本を含め、世界中のどこかで片山先生の作品をみることができるそうです。
最後の質疑応答での「写真が上手くなるにはどうすればいいですか?」という質問に片山先生は、
「いろいろな作品を見ること、授業科目の中で写真に関するものなどがあればいいな」と答えました。

講義の中で繰り返された「自分らしさとは何か」「合成ではないこと、合成するならやってない」
「クリエイティブに壊すこともできる」など、心に響く言葉が多くありました。

身近に感じる先輩の貴重な講義、大変有意義な時間になりました。

ありがとうございました。

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