2018年12月24日月曜日

「芸術の現場から」(県民公開授業) ハラ ミュージアム アークの山川恵里菜先生による御講義

リレー講座の第10回(2018.12.18)は、群馬県渋川市の美術館「ハラ ミュージアム アーク」から山川恵里菜先生にお越しいただきました。


山川先生は、本学美学美術史学科及び大学院芸術学専攻の卒業生です。
現在、美術館でおもに広報を担当なさっています。

ジャン=ミシェル・オトニエルの作品《Kokoro》を前景に

ハラ ミュージアム アークは、伊香保グリーン牧場に隣接する私立美術館です。東京都品川区の現代美術を専門とする原美術館の別館です。群馬県立近代美術館と同様に、建築家の磯崎新氏が設計しました。

両美術館は、公益財団法人アルカンシエール美術財団を母体としています。原美術館は2020年12月末に閉館し、2021年からはハラ ミュージアム アークは「原美術館 ARC」と館名を改め、活動拠点を「原美術館ARC」に集約する予定です。

今回の授業では、両美術館の紹介や今後の動向、またハラミュージアムアークにおける美術館のスタッフたちのお仕事についてご講義をしていただきました。



美術館の仕事というと、すぐに思い浮かぶのは「学芸員」かもしれません。しかし、実際には様々な職種があります。

山川先生は、コンパクトな私立美術館ならではの、統率力を活かしたスタッフ連携による運営の内容を詳細に紹介してくださいました。
この美術館では、皆で一緒になってお客様をおもてなしするというコンセプトのもとで、ショップやカフェもすべて美術館スタッフが担当しています。



「ひとつの展覧会をめぐって、それぞれどんな人がどんな仕事をしているのか」、イラストを用いながらわかりやすく説明してくださいました。

ひとつの展覧会を企画・開催するたびに、館長、学芸員、総務・経理、広報、デザイン、受付、監視、警備、営繕、ミュージアムショップ、カフェの職員たちが協力しあいながら、それぞれの仕事をこなしていることがわかりました。

展覧会開催期間以外にも、皆さんの仕事は日々展開していきます。

広報のみならず、ショップや学芸のお仕事にも携わっている山川先生。私たちに広い視野で美術館や展覧会の運営について考えることを教えてくださいました。

山川恵里菜先生、ご講義をどうもありがとうございました。

・ハラ ミュージアム アーク ウェブページ:http://www.haramuseum.or.jp/jp/arc/
・原美術館 ウェブページ:http://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/

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平成30年度「芸術の現場から」
10月~来年1月 火曜16:20~17:50 群馬県立女子大学 新館1階第1講義室にて
スケジュールはこちらをご覧ください。
https://www.gpwu.ac.jp/dep/lit/art/2017.html

2018年12月17日月曜日

「西洋美術史実地研修2」(第4回)に行ってきました!

ギュッとくる寒さ、まぶしい青空。
午前10時の上野公園では、どこかへと急ぎ向かう人々が往来していました。

第4回の実地研修は、最初に「ムンク展――共鳴する魂の叫び」(東京都美術館)を
見学しに行きました。

エドヴァルド・ムンク(1863-1844年)は、《叫び》の絵でよく知られたノルウェー出身の画家。《叫び》にはいくつかのヴァージョンがありますが、このたびオスロ市立ムンク美術館蔵の作品がやって来ました。


入口前には待ち時間40分の看板があり、覚悟を決めてエスカレーターを降りました。

事前学習の発表風景

長蛇の列でも笑顔

並びながらポーズをとってくれました。

会場内は大混雑でしたが、ムンクの作品と対話することができたでしょうか。


この後は、NHKと東京藝術大学による展覧会「ART of 8K ~テクネ 映像の教室 in 東京藝術大学~」(東京藝術大学大学美術館)を見学しました。

12月1日からNHKで始まった8K放送。
超高精細映像×アートの挑戦を体感できる絶好の機会でした。

8K撮影を体験

今ある現実を超えた色鮮やかな映像には、やはり素直に驚きと感動をおぼえました。
考えてみれば、美術の歴史はつねに技術とともにありました。
これからの若い人たちは、どのような世界をひらいていくのでしょうか。

NHK Eテレ番組「テクネ 映像の教室」制作統括の倉森京子さんには、
11月に本学授業「芸術の現場から」にお越しいただき、美術番組の制作について
ご講義をしていただきました。
(「芸術の現場から」ブログ記事へ
      https://kenjo-bigaku.blogspot.com/2018/11/blog-post_16.html


昼食後は、「ルーベンス展――バロックの誕生」(国立西洋美術館)を
見学しました。

ペーテル・パウル・ルーベンス(1577-1640年)は、フランドルのアントウェルペン
(英語名アントワープ)を拠点に広くヨーロッパで活動した、バロック美術を代表する画家です。


事前学習の発表風景

今回の「ルーベンス展」は、画家とイタリアとのかかわりに焦点をあてています。
そのため、版画素描展示室での企画展「ローマの景観――そのイメージとメディアの
変遷」も意識的に見学しました。
事前学習では、ルーベンスのほか、古代ローマ遺跡を壮大に描出した
18世紀イタリアの版画家ピラネージ、また国立西洋美術館について学びました。

「ルーベンス展」を担当するTBSテレビ事業局の佐藤麻理子さんには、
先日やはり「芸術の現場から」の授業でご講義をしていただきました。
佐藤さんは、本学美学美術史学科の卒業生です。
授業では、展覧会の企画から開催までについてお話をうかがいました。
(「芸術の現場から」ブログ記事へ
  https://kenjo-bigaku.blogspot.com/2018/12/tbs.html


ロダン《考える人》の前で

今年度の「西洋美術史実地研修2」は、これで終わりです。
明るくて優しい学生たちとの楽しい授業でした。

それでは、また来年。

どうぞ良いお年をお迎えください。

「芸術の現場から」(県民公開授業)TBS展覧会担当の佐藤麻理子先生による御講義

リレー講座の第9回(2018.12.11)は、TBSテレビ事業局事業部から展覧会担当の
佐藤麻理子先生にお越しいただきました。


佐藤先生は、本学文学部美学美術史学科の卒業生です。これまでに数多くの展覧会の企画・運営に携わってこられました。昨年度に続き、ご講義いただきました。


今回のご講義は「メディアと文化事業――展覧会の現場より」というタイトルで、
おもに国立西洋美術館との共催事業に焦点を当ててお話してくださいました。

TBSと国立西洋美術館との共催展

TBSテレビは「カポディモンテ美術館展」(2010年)以降、毎年1~2回のペースで
国立西洋美術館と共催の展覧会を続けています。

このような展覧会は新聞社も共催者となり、学術面は美術館の学芸課が、
そして実務面はメディアが担当して事業が進められます。
とはいえ、美術館とメディアそれぞれの視点があるためにバランスをとりながら、
同じベクトルを向くように日々作業をしているそうです。

「ルーベンス展」広報資料

現在、国立西洋美術館では共催事業の「ルーベンス展――バロックの誕生」が
開催中です。

ペーテル・パウル・ルーベンス(1577-1640年)は、フランドルのアントウェルペン
(ベルギーの都市、英語名アントワープ)に大工房をかまえ、広くヨーロッパで活動した画家です。『フランダースの犬』のアニメでご存知の方も多いでしょう。
主人公の少年ネロが憧れていたあの画家です。

「ルーベンス展」チラシ

佐藤先生は、2015年の企画当初から現在進行形の広報活動に至るまで、
現場ではどのような状況であるのか、企画成立前の段階から順を追って話してくださいました。

ひとつの展覧会が開催されるまでには、国内外における様々な人々の協力があり、
また年月をかけた用意周到な準備のみならず、臨機応変な対応も必要とされることを知りました。

圧倒的な空間を演出する会場と、じっくり読む図録とでは構成にも異なる工夫をこらし、開催中も何百という媒体を介したメディアによる広報を続けていきます。


最後に「展覧会は誰のもの?」と原点に帰り、メディアとして皆さんのために
良い展覧会を届けることが大切だと語られました。

佐藤先生の展覧会のお仕事は、国立西洋美術館との共催事業のみではありません。
たとえば、昨年度は同時進行で新国立美術館と「ジャコメッティ展」を共催しています。図録は今年の「第59回全国カタログ展」において、「国立印刷局理事長賞」と
図録部門の「部門賞 銀賞」を受賞しました。

来年秋には、国立西洋美術館との共催で「ハプスブルク展」が開催予定です。
一年後が楽しみですね。

佐藤麻理子先生、ご講義をどうもありがとうございました。

・「ルーベンス展――バロックの誕生」特設サイト:  
  https://www.tbs.co.jp/rubens2018/

・「芸術の現場から」2017年度 佐藤先生ご講義ブログ:
  http://kenjo-bigaku.blogspot.com/2017/12/blog-post_6.html

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平成30年度「芸術の現場から」
10月~来年1月 火曜16:20~17:50 群馬県立女子大学 新館1階第1講義室にて
スケジュールはこちらをご覧ください。
https://www.gpwu.ac.jp/dep/lit/art/2017.html

2018年12月12日水曜日

「芸術の現場から」(県民公開授業) デザイナーの加藤麻由美先生による御講義


リレー講座の第8回(2018.12.4)は、株式会社ほんやら堂からデザイナーの
加藤麻由美先生にお越しいただきました。


ほんやら堂は高崎市を拠点とする健康雑貨メーカーです。群馬に限らず、東京などの雑貨屋さんで「おやすみ羊」や「なまけたろう」「柴ずきん」といったキャラクターの安眠まくらや入浴剤など、ほんやら堂が企画販売する健康と癒しのグッズを見かけた方も多いのではないでしょうか。

ほんやら堂の商品を前に、店頭に並ぶまでのチェック項目の説明

加藤先生は、商品開発部のディレクターをなさっています。
社員が少人数のほんやら堂では、分業制でひとつの仕事のみをするのではなく、ディレクターは企画から販売まで全体の製造工程に携わります。

デザイン制作はもちろんのこと、景品表示法や薬機法といった法律に抵触していないかのチェックや、品質管理、利益率の計算など、またどのような問題が想定されるか、その場合はどのように対処するのかというリスク管理も行います。
世の中に商品を出す責任の重さを実感していると語られました。

2019年春限定、母の日に向けた「ボタニカルローズ おやすみ羊」のまくら

商品企画は販売予定の1年前に始まります。商品化が決まれば、実際に商品を製造する工場とのやり取りや、商品カタログの作成、バイヤー対象の展示会が待っています。カタログのデザイン、カタログ用の商品撮影、展示場のポップ作成など、商品が店頭に並ぶまでにはすることがぎっちり。スケジュール管理も大切です。

加藤先生のデザイン帖から(「ボタニカルローズ」)

商品化する際には自分の当初デザインに固執せずに、バイヤーさんなどの話を聞いたりしながら、どうすればお客様に買ってもらえるのかという視点で作るとのこと。
自分のデザインを否定されても落ち込むことはないそうです。自分のデザインは賛否にかかわらず、自分にとってゆるぎないものであり、今のニーズに合ったものを商品化するということはまた別のものであるからと、商業デザイナーとしての姿勢を語ってくださいました。

商品や企画書などを見せていただきました。

新たに企画販売する商品は、毎年300種類以上。様々な工程があり、そして様々な人がいてこそ初めて商品は生まれてきます。


「とにかく素直であること」がいろんな人と関わっていくうえで大事であると学んだと語る加藤先生。ご自分の得意なことや得意でないこと、また学生時代から現在のご職業につくまでの様々なエピソードも話してくださり、私たちは自分のことも素直に受けとめながら毎日を過ごす大切さも一緒に学んだような気がします。

加藤麻由美先生、ご講義をどうもありがとうございました。


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平成30年度「芸術の現場から」
10月~来年1月 火曜16:20~17:50 群馬県立女子大学 新館1階第1講義室にて
スケジュールはこちらをご覧ください。
https://www.gpwu.ac.jp/dep/lit/art/2017.html